ニュースレター42号
2023/03/02
今年度事業経過報告
とても厳しい寒波が到来しましたが、いかがお過ごしでしょうか。さらに物価や光熱費の高騰もあり、生活の厳しさに直面しています。その厳しさの中での本年度事業の経過についてご報告いたします。
【びーらぶプログラム】
自立支援事業として、10月から3月までDV被害女性とその子どものための心理教育プログラム「びーらぶプログラム」低学年をしています。このプログラムは母親と子どもが別室で、同じテーマで行います。今年は6家族の参加で、12回のうち9回まで終了しました。暴力は暴力を選んだ人の責任で、被害を受けた人のせいではないことを伝えます。毎回クロージングでは「あなたはかけがえのないたいせつな人」というびーらぶメッセージを伝えています。
また、20代と70代の女性にびーらぶプログラムの「エンパワメント」を7月から11月まで12回行いました。対象年齢のこどもがいない女性たち用のものです。参加者の自己肯定感も高まり、「自分の力を取り戻して」いきます。
【日本虐待防止学会ふくおか大会に参加】 びーらぶプログラムについて日本虐待防止学会ふくおか大会2022年12月10~11日の公募シンポジウムに応募し発表しました。内容は「虐待の連鎖を断ち切るためのびーらぶプログラム」と題してびーらぶプログラムの説明と効果について発表しました。このプログラムを開発したNPO法人女性ネットSaya-Sayaとびーらぶ♡チバの発表もありました。女性ネットSaya-Sayaのプログラム開発について説明があり、びーらぶ♡チバは母子支援施設でプログラムを行っている報告がありました。
具体的にどのようなことをするのかを説明するために、第4回「怒りを感じたときどうする?」の一部を母親プログラム、子どもプログラムで同じテーマをどう伝えているのかを実演しました。母親では怒りは自尊心を守るために大切な感情であることを伝え、どう行動するかをワークシートに書いていきます。怒りを感じたときに人間関係を悪化させない対応はどんなものかを話し合い、怒りを感じることと暴力をふるうこととは違うことを伝え、暴力を受けた被害者が悪いのではなく、暴力を選んだ加害者の責任であることを強調します。また、子どもプログラムでは、人形劇で暴力編、解決編をみて怒りを感じても暴力をふるわない方法を考えてもらいました。さらに怒りを感じた時暴力ではない行動の選択肢を増やすことを伝えました。
びーらぶの効果については、プログラムの開始前と終了後に同じ内容のアンケートをして、比較しました。母親に自己肯定感やジェンダー役割などについて26項目を質問します。各項目を5段階で自己評価し、130満点のうち実施前の平均は93点で実施後の平均108点でした。子どもの方も子ども用に自己肯定感やジェンダー役割など22項目を各5段階で自己評価し、110満点中開始前平均84点、実施後平均90点でした。母子ともに明らかに変化が出ています。プログラム中に子どもも母親も自己肯定感が上がっていることを実感します。毎回母親に子どもとのかかわりで良かった点を尋ねると、コミュニケーション方法を実践して子どもとも話せるようになったという報告が上がっています。また、インストラクター自身もプログラムをしながら自分自身を見つめることができるという副産物もあるというような報告をしました。90分のシンポジウムでしたが、100人以上の参加があり、たくさんの質問を受け、関心の高さを実感しました。
【安全な居場所づくり】これまで自立支援のための居場所「かもみーる」をしていたアパートを、事務所のあるアパートに転居しました。偶然にもアパートの空きがあったので12月に転居することができました。これまでのアパートは3階で足腰の悪い人達には苦痛となる会場でした。今度はエレベーターもあるのでバリアーフリーになりました。
【デートDV防止教育】 2011年からデートDV防止講座をしてきましたが、イヴ・サンローラン・ボーテ(YSL)の社会貢献事業「日本の学生2万人にデートDV防止講座を!」に参加しています。これはYSLがNPO法人女性ネットSaya-Sayaに事業委託したものに協力してデートDV防止講座を山口県内の学校で行っています。この講座にはアンバサダーのローラさんのメッセージや、イヴ・サンローランのデートDVの見分け方9つの方法などが入っています。学生たちは熱心に聞いてくれています。講座開始前と終了後に同じ内容のアンケートを行いますが、アンケート結果をみると、受講生徒の意識が変わったことが分かります。
【シェルターからの報告】
今年度は、これまでに20家族35人を保護しています。県外から来た人も、県外に出た人もあります。若い人が多く、10代20代~30代が半数以上を占めています。若い人は親との関係がうまくいかない人やDV被害者です。Aさんは、県内にいることは不安なために遠くに行きたいということで、県外の団体に支援を依頼して県外に行かれました。10代のBさんは、県外から山口県の知人を頼って来ています。全く知らない山口県ですので、支援をしながら今後自立するための準備をしています。コロナの影響もでています。
【つながりサポート山口】
前年度は県内各地で面接をしていましたが、必要に応じて面接に行っています。下松ハローワークからの要請により11月から月1回相談会を行っています。1回に3人ぐらい面接をしています。
12月は電話相談200件弱、メール相談30件、SNS相談5件、面接4件です。人間関係、病気、財産問題などがありますが、ダントツに多いのは不安・孤独などの心の問題です。繋ぐことができるものはできるだけ繋いでいますが、ただ、話を聴いてほしいという電話もあります。
【山口県共同募金会テーマ募金が始まりました】 去年のテーマ募金のご協力をありがとうございました。今年も山口県共同募金会のテーマ募金が始まりました。シェルター入所者が安全に安心して生活ができるようにしたいと思っています。そのための費用として使わせていただきます。食材、家電製品、同行支援費などを考えています。是非、ご協力をお願いします。
離婚後の共同親権が立法化されようとしています。
鈴木 朋絵(弁護士、理事)
離婚する夫婦の間の子どもの親権は、どちらか一方がもつということになっています(単独親権制度)。しかし、この制度が変わってしまう法案が準備されています。今年2月17日までの間に、法務省がパブリックコメントを集めているのが「家族法制の見直しに関する中間試案」。内容には、離婚後も、原則として子どもの親権を両親が共同でもつことができるという制度を導入するという案が含まれています。
この法案は、まだ国会ではなく、法務省の法制審議会で審議されている段階です。しかし、ここをすんなり通過すると、与党議員たちの支持を集めているため、まもなく立法されてしまうでしょう。パブリックコメントを送ることが重要です。
中間試案では、賛成案(甲案)、反対案(乙案)の両論併記型で書かれていますし、賛成案(甲案)は3つにわかれているため、ちょっとわかりづらいのですが、賛成案(甲案)はどれも家庭裁判所の判断によっては、夫婦の一方が望まなくても、離婚後も共同親権になってしまうことを認める制度となっています。
単独親権制度は不公平であるというのが賛成側の理由です。子どもは両方の親から養育されるべきで、DVや虐待がないのであれば、離婚後も、共同親権・共同養育は別居・離婚していても可能だといいます。
しかし、そもそも、いまの日本社会は、すべてのDV被害者をDV被害者として適切に対応し、支援できているのでしょうか。例えば、被害者が暴力を防ぐために相手を突き飛ばすなど手を出せば、警察は、「双方DV」「相互DV」などと、まともに被害者支援をしないという残念な状況です。DVや虐待は立証も難しく、被害者として扱われる方はごく一部です。面会交流ではDV被害者といえども強引に対応させられている家裁実務も考えると、「結婚が終わらない」離婚後共同親権制度はDV被害者と子どもの生命・身体・精神の安全と自尊心を守ってくれない制度といえます。子どもにとっても、DVを是とする親から逃げてはいけないのでしょうか。共同親権制度がある国々でも問題事例が多く指摘されています。ぜひ、パブリックコメントを送っていただけたらと思います。
提出先 法務省民事局参事官室 郵送:100-8977 東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
FAX:03-3592-7039 電子メール:minji222@i.moj.go.jp