ニュースレター19号
2011/07/06
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ニュースレター19号 |
総 会 を 終 え て
梅雨の候、みなさま如何お過ごしでしょうか。東北大震災があり、自然災害の恐怖と放射能汚染の恐怖にさらされました。それでも復興に向けての情報は、明るい希望を与えてくれます。
私たちのDV被害者支援事業も、平成22年度の事業が終わり、5月8日に平成23年度総会を開催しました。そこで、平成22年度の事業について報告します。たくさんの事業を行い、大変忙しい年度でした。
従 来 事 業
従来電話相談 | メール相談 | 面接 | 手紙 | 全国DVホットライン | 同行支援 | シェルター利用 | パソコン教室 |
207件 | 456件 | 18件 | 2件 | 4~6月 46件 | 6回 | 3人述べ68日 | 59回 |
新 規 事 業
内閣府24時間ホットライン | 内閣府居場所作りモデル事業 | 山口県男女共同参画協同事業 | 山口県自助グループ委託事業 | 宇部市相談事業 | (独)福祉医療機構助成 | ステップハウス |
2~3月44件 | 11月~2月6回 | 講演会 123人 | 2か所12回 個人22回他 | 相談対応件数 879件 | 母子のヒーリングケア 22回他 | 2か所 述べ281日 |
従来の事業は、電話相談、メールでの相談、面接相談、手紙相談を行いました。エスコート事業では、裁判所、弁護士事務所、行政付添も行いました。また、全国共通DVホットラインを4月から6月まで担当しました。シェルター事業では、利用者に対するケアを行いました。昨年、念願のステップハウスが篤志の方の提供により運営できるようになりました。職業支援として、パソコン教室も行い職場での活用ができるようになった人もいます。広報啓発事業では、ニュースレターの発行2回、学会発表が2回、講師派遣を4回行いました。
研修事業は、11月に久留米で開催された全国シェルターシンポジウムで最新の情報を得、内閣府アドバイザー派遣による研修は、「母娘」について研修しました。2月の山口県DV研修にも参加し、常に研修には心がけています。
昨年度は、新たな事業として行政や民間団体からの委託や協働事業を行いました。山口県男女共同参画協働事業では、信田さよ子氏を招き「愛情という名の支配」の講演会を開催しました。DV被害についての啓発と被害者心理について講演をされました。7月から3月までは、宇部市配偶者等暴力被害相談業務一部委託を受け、平日9時から16時までの相談を一部担当しました。毎日電話や面接、配偶者暴力相談センターとしての業務、庁内での連絡調整を行いました。さらに2月~3月は、内閣府主催24時間DVホットラインを全国の仲間とともに担当しました。
さらに、自立支援として山口県配偶者等暴力被害者自助グループ企画運営委託を受けました。6月から3月まで2ヶ所で自助グループを開催し、個人の要望に応じたケアをしました。さらに独立行政法人福祉医療機構の助成で、4月から3月まで3か所の母子 のヒーリングケアと合宿や野外活動などでリフレッシュしました。内閣府委嘱地域定着促進支援モデル事業を一部担当しました。「仲間との出会いの場プログラム(居場所つくり)」では、年賀状つくり、音楽療法、リフレッシュ体操、お正月を仲間と過ごす、植物セラピー等多様なメニューで実施しました。このように昨年度は大変忙しく充実した事業展開となりました。これらの活動を通して当事者に必要なことは何かを学び、支援の質・量をこなすことにより、支援員の力量の向上が得られました。
「女性に対する暴力の支援者養成講座」
全国女性シェルターネット主催(ボーイング社助成事業)の「女性に対する暴力の支援者養成講座」を受講してきました。研修期間は6月16日~19日でした。山口女性サポートネットワークから7人が参加しました。同じ講座が9月にも開催され、もう1人参加予定です。山口女性サポートネットワークからはたくさん参加しています。今日話題になっている新しい課題についても研修してきました。
DV関連法令の活用やこれまで見過ごされてきた性被害やセクシュアルマイノリティへの支援、さらに災害時における女性への支援について実践報告がありました。これらの内容は、日ごろの相談現場で立ち向かわねばならない内容です。この研修は密度の濃い内容でした。今後、相談者への適切なアドバイスや支援として活用していきたいと思っています。講座内容は以下の通りでした。
6月 | 内容(13:00~16:00) | 講師 | 内容(13:00~16:00) | 講師 |
16日 | DV基本方針及び基本計画・関連通知・通達 | 近藤恵子 | 売春防止法・社会福祉法・人身売買関連法制定 | 宮本節子 |
17日 | DV・性暴力被害者支援トラウマとPTSD | 井上摩耶子 | DV・性暴力被害者支援 被災女性と暴力 | 田端八重子 |
18日 | 特別な配慮を必要とする人々への支援 人身売買 | 大津恵子 | 特別な配慮を必要とする人々への支援 セクシュアルマイノリティ | 原美奈子 |
19日 | 特別な配慮を必要とする人々への支援 性搾取・ポルノ・盗撮など | 横田千代子 | DV防止法第三次改正の課題 | 近藤恵子 |
外傷後成長(PTG: Posttraumatic Growth)
辻 龍雄
暴力、虐待、犯罪被害に遭った人たちのイメージとして、被害者は精神的なダメージを受けていて長期にわたる援助や支援が必要という意見があります。しかし、私は、必ずしもそうではないと思います。被害者の人たちの中には、時間的な経過とともに、単に立ち直るだけでなく、人間的な魅力や強さを持つ人たちがいます。
公衆衛生という学術雑誌に「トラウマからの回復」という連載をされている女性がいます。彼女は性暴力被害者です。彼女の文章は、こうした被害者に向き合う専門職の人たちに多くを教えていると思います。彼女はNPO法人を立ち上げ、社会的な活動を展開され、ご自身の過去を昇華されている。
松本サリン事件の河野さん、光市母子殺人事件の本村さんは、お二人ともごく普通の会社員でありながら、国の司法制度まで変えてしまった。
極限的な状況に追い詰められて、その状況を切り抜きることができた人たちには、しっかりとした賢さ、大きさのようなものがあるように思います。治療により癌を克服された方々にも、そうした現象がみられます。
それは、外傷後成長(Posttraumatic Growth:とても悲しい苦しい、衝撃的な経験をして、たしかにその時は激しく傷ついても、その後、むしろ素晴らしく人間として成長することがあること)と呼ぶ概念なのかもしれません。
和文学術論文検索のCiNiiで「外傷後成長」を検索すると2編の論文。一方、英文医学論文検索のPubMedで「Posttraumatic Growth」を検索すると医学分野だけで618編の論文。日本では、まだ、外傷後成長の研究は進んでいないようです。
10数年前に日本にPTSDが紹介され、暴力、虐待の領域で、被害者の精神状態の一つとして急速に普及していきました。特に、日本でも民事訴訟の分野で損害賠償請求の対象となって以降、さらに普及したようにみえます。
それから10数年後の今、PTSDと診断されていた人たちの、その後をみると、個人的な経験則ではありますが、症状が消えたり、弱まっているのです。しかも、治っているだけでなく、人間的な成長を遂げられている。
自然災害によるPTSDの80%は自然治癒するという報告があるようです。今後、暴力や虐待によるPTSDの予後についての検証が開始され、そこに、外傷後成長(PTG)という概念が出てくるのではないかと推察しています。いつまでも、「被害者」は「被害者」ではない、と私は思っています。