ニュースレター31号
2017/08/07
梅雨が明け、暑い日々が続きます。今年も各地でひどい豪雨被害がありました。皆様のところはいかがだったでしょうか。被災されました方々にお見舞い申し上げます。
平成28年度の事業報告をします。
平成28年度事業報告
1. 相談事業について
電話窓口には様々な相談が入ります。電話だけで終わる場合もありますが、話が複雑な場合は面接をしています。相談者の近くまで出かけて面接をします。その後、シェルターへの入所となることもあれば、シェルターには入らないが継続的相談となることもあります。平成28年度の電話相談は63人、262回でした。前年より86回増えています。
2. 自立支援事業について
自立支援事業はDV等の被害を受けた女性たちが生き抜くためにサポートをする事業です。生活をするうえで必要な食料品、物品の提供をし、課題解決のために面接をし、行政・法律関係・警察関係・ハローワークなどへの同行をしています。さらに定期的に自助グループやサポートグループを開いて心のケアをしています。
フードバンク山口やフードバンク下関、あるいは有志の方々から米・麺類・缶詰め・調味調などをいただいています。それらを持って、定期的に家庭訪問しています。米はとても重宝されています。
自助グループはこれまでは母親を対象に行ってきましたが、新たに子ども対象の子どものワークもすることにしました。全労災の助成金によって「母親と子どもの回復のためのプログラム」を月一回実施し、母親グループのワークと子どもグループのワークを行いました。母親と子どもの回復のためのプログラムを5回行いました。延べ51人の参加がありました。
シェルターを退所し、新しい住宅に入る場合の引越しの手伝いや、警察署関係、行政手続きの同行を31人に142回行っています。
3. シェルター事業について
現在、シェルターとステップハウスを含めて4室あります。シェルターは緊急一時保護であり、ステップハウスはそこから学校や仕事に行くことも可能な住まいです。ステップハウスの2室については、家賃、共益費、駐車場代は無償で提供を受けています。
宇部市のDV被害者支援事業で2ドア冷蔵庫を3台と炊飯器1台を購入し、シェルターとステップハウスに備え付けました。「全国女性シェルターネット」の貸付金PMJ基金の申請2件、高級ブランドTHEORYから提供された洋服を16人に手渡しました。
シェルターに12家族28人が入所し、487日の利用がありました。ステップハウスは8家族15人、440日の利用がありました。山口県から1件の委託がありましたが、その他の19家族は自費での入所となっています。シェルターとステップハウスの稼働率(4部屋の利用日数)÷(365×4)×100=927÷1460×100=63.5となり、63.5パーセントの稼働率でした。昨年度6家族12人、498日と比較すると、家族数3.3倍、利用人数3.5倍、利用日数1.8倍の増加でした。近年、入所者は増加傾向にあります。
シェルター退去時には、有志から提供された家電や家具、台所用品、寝具等生活に必要な物品をできる限り提供しています。常に提供できるよう回収し、ストックしています。
入所者が生活を立て直すために関係した機関は以下の通りです。関係機関も年々増加しています。
山口県男女共同参画相談センター、宇部市配偶者等暴力防止相談センター、山口県住宅課、児童相談所、児童養護施設、各市(住民課、生活福祉課、住宅課、生活サポートセンター、子ども家庭課、障害福祉課、保健センター、教育委員会)、ハローワーク、年金事務所、弁護士事務所、法テラス、裁判所、検察庁、母子支援施設、警察署、不動産屋、中学校、高等学校、保育園、病院(精神科、産婦人科、小児科)、フードバンク、NPO法人全国女性シェルターネット、PMJ基金
4. 広報啓発事業について
宇部市の女性活躍推進サポート事業の助成で橘ジュン・KENさんを講師として講演会「10代20代女性の生きづらさ、漂流する彼女たち」を開催しました。若い女性たちの状況について学び、参加者と講師とで意見交換を行いました。若い女性たちの支援も考えていきたいと思っています。
山口きらめき財団や宇部市のデートDV防止教育の派遣講師として、7校の中学、高校、高等専門学校、大学などで、2120人を対象にデートDV防止教育を行いました。若者たちが恋人やパートナーとDVのない対等な関係を作ってくれることを願って話をしています。
5. 研修事業について
サポートグループ研修やNPO法人Saya-Sayaで「びーらぶ」ファシリテーター研修に参加し、実際の母子プログラムに生かしています。さらに、全国女性シェルターネットのシェルターシンポジウムに参加しました。その他、相談員は自費であちこちの研修に参加しています。
6. 課題
当NPO法人は経営的に非常に厳しい状況が続いています。相談員の時給が今年度も払えていないという状態です。7助成金事業を行い、事業内容は豊かになったものの、助成金以上の経費がかかるので助成金事業をすればするほど赤字になるという現状もあります。
シェルター入所者は自費入所者が大部分です。委託された人には、委託費が出ますので入所費や水光熱費、食料費などすべてを無料で提供していますが、自費入所の人には1日500円と水光熱費を負担してもらっています。この金額が支援費として妥当な金額ではありませんが、入所者に最低限の費用として負担をお願いしています。それでもシェルター代が未納の人もいます。支払能力の低い人の自費入所は厳しい生活の実態を目の当たりにせざるを得ません。入所費用の負担がなくならないものかと試行錯誤していますが、未だその術がありません。
シェルター・ステップハウス利用者20家庭の経済面を見ると、貧困ライン112万円を超えている人は退所段階で3件で、退所後、貧困ラインを脱した人は1人しかいません。DVから逃れても貧困との戦いは続いています。
資金を得るための努力として、赤い羽根共同募金会のテーマ募金に応募しました。目標額80万円にはわずかに達成できませんでしたが、たくさんの方から寄付を得ることができました。このことは、とても心強いです。このお金はシェルター運営費や面接同行支援に活用できるので、少し安堵できます。
このように、多くの方々から金銭面、物品、家財道具、食料品、ステップハウスなど支援を受けています。スタッフも心身を削りながら被害者が元気になる姿に勇気づけられながら支援をしているところです。
新聞記事から
改正刑法施行は7月13日 性犯罪を厳罰化 2017/6/23 12:13
性犯罪を厳罰化する改正刑法が6月23日、公布された。付則で公布から20日を経過した日から施行すると定めており、7月13日の施行が確定した。
改正刑法は、強姦罪の名称を「強制性交等罪」に変更。女性に限定されていた被害者に男性を含め、性交類似行為も対象とする。法定刑の下限は懲役3年から5年に引き上げる。
強姦罪や強制わいせつ罪などで、起訴するのに被害者の告訴が必要となる「親告罪」規定を削除。施行前に起きた事件にも原則適用する。
家庭内での性的虐待を念頭に、親などの「監護者」が立場を利用して18歳未満の者に性的な行為をすれば、暴行や脅迫がなくても罰する「監護者わいせつ罪」と「監護者性交等罪」を新設した。〔共同〕
シェルターからの報告
最近も退所されると、すぐ次の入所者が現れる状況です。いろんな人達が入所されます。国際的な支援も必要となっています。とても嬉しかったケースを紹介します。これまでウツ状態で寝たきりだった人が家を出て入所となりました。私たちが彼女に対応できる力があるのか不安がありました。シェルターに入所した夜は、すっかり安心してよく眠れたということでした。彼女と毎日昼食を一緒に食べ、これまでの溜まった思いを吐き出されました。時々彼女が作ったおやつなどもいただきました。そんな日々を過ごしているうちに、減薬にもなり今では新しい住まいで元気に過ごしておられます。強い圧力から解放されると、こんなに人は元気になるのだということを実感しました。
2017年7月13日以降の時代の変化を期待したい
2017年7月13日以降の時代の変化を期待したい
辻 龍雄
本日、2017年7月13日に、性犯罪が厳罰化された法律が施行された。この領域に関わってきた人たちは固唾をのんで、先の国会での刑法改正の行方をみていた。やっと、成立した。
私が注目する改正の要点は2点。一つは、性犯罪の「非親告罪化」。強姦の被害にあった被害者に告訴するかしないかの判断を求めても、社会の風土が性犯罪被害者に冷たい状況では、被害者は警察に通報することをためらう。たとえ犯人が誰かわかっていたとしても、被害者は裁判で事件が公にされることを選ばない。加害者は処罰されないことで成功体験をもち、性犯罪を繰り返していく構図がある。
どれほど強姦事件の性犯罪者に常習犯が多いかという論文がある。平成19年から21年までの3年間で8例の性犯罪の裁判例が裁判所ウエブサイトの判例検索システムで公開されている。この8例中5例の事件で1事件あたりに1名から28名の被害者がいて、平均すると一人の性犯罪者に8.2名の強姦被害者が存在していることになる(境原三津夫.群馬社会福祉論叢、平成23年)。
性犯罪が非親告罪となれば、事件を知った人や、診察した医師の通報で事件の捜査が始まることも可能となる。これまでは被害者が世間体を気にして告訴しないといえば、それで終わりだったが、これからはそうはいかなくなる。時代は変わる。
もう一つは、「監護者わいせつ罪」「監護者性交等罪」が新設されたこと。家庭内での性的虐待を念頭に、親などの監護者が18歳未満の子にわいせつな行為や性交に及んだ場合には、暴行や脅迫が伴わなくても罰することができることになった。
性暴力被害者の自助グループに、被害女性と共に何度か参加したことがある。そこには実の親や兄弟から継続的に姦淫されていた人たちがいた。大半がそういう人たちだったと言っても過言ではない。この人たちには救いがない。親や兄弟から、信じがたいほどの理不尽な性被害に、幼い頃からあってきたのに、加害者の親や兄弟を刑法で処罰することは極めて難しい。というより、ほぼ不可能であった。今回の法改正により、この領域を刑法で裁ける道筋ができた。これも時代を変える。
これまでの状況、つまり、性犯罪被害者は刑法によって加害者を処罰することが困難な状況の中で、性暴力被害者のサポートの中心となる職種は臨床心理士であった。臨床心理士のサポートを受けて、自分の心の中にある悔しさ、やり場のない憤り、心の中の、そうしたものと、自分自身でどうにかして折り合いをつけ、彼女たちは自分の心の平穏を取り戻そうとしているように思えた。
最近の被害者支援活動には、臨床心理士から弁護士への変化がみてとれる。DVの民間シェルターの領域でも、犯罪被害者支援の領域でも、弁護士の活躍が増えた。この動きは警察庁により各都道府県に設置されている被害者支援センターの理事長が、臨床心理士から弁護士へと変わりつつあることからも明らかである。
弁護士が主導することで実務的な面が強くでてきたともいえるが、被害者の人たちが加害者の処罰を望んでいるからだろうと思う。心理的なサポート、刑法による加害者の処罰。この二つがうまく連携して性暴力被害者のサポートが進められていくことを期待したい。
赤い羽根テーマ募金 ありがとうございました。
おかげさまで赤い羽根共同募金会から788,893円の寄付をいただきました。
平成29年度事業で使わせていただきます。
皆様の温かいご寄付に感謝申し上げます。