ニュースレター32号
2017/12/25
今回も赤い羽根テーマ募金に認定されました。
年末となり慌ただしい日々をお過ごしのことと思います。昨年お願いしました赤い羽根テーマ募金は80万円の目標額に対して798.893円の募金を頂きました。皆様のご支援のおかげです。このテーマ募金は、1月~3月という期間限定で、指定の振込用紙にご寄付いただいた金額がそのまま山口女性サポートネットワークに共同募金会から助成されるというものです。また、この寄付は社会福祉法人への寄付ですから寄付金が税金控除の対象になるということで、寄付されたみなさまにもメリットがあります。今年度も赤い羽根テーマ募金に応募し、認定されました。
今、山口女性サポートネットワークのシェルターに入所される方が増えております。昨年度は20家族が入所されましたが、今年度も12月現在で11家族18人です。それぞれの人のそれぞれの事情に合わせて対応しています。警察署、裁判所、病院、行政、学校、ハローワーク、不動産屋などに同行しています。本人の意思を確認しながら生活再建に向けて最大限の努力をしています。
しかし、今年度は障がいがある人、物忘れのひどい人、ひどい混乱状態にある人など多様な問題を抱えたDV被害者たちとの出会いが多かったです。スタッフは毎回愛情いっぱいに支えてきましたが、一時的な出会いだけでこの方たちが自立していくことは難しく、私たちの限界を感じた年でも有りました。なかなか「自立」はハードルが高いことを感じました。
シェルター入所者だけの支援ではなく、退所後の支援も多様性を求められています。スタッフは面接、物品支援、行政への同行など積極的に行っています。
今年度は同行、面接を細かく記録に取りました。これまでは大雑把だったのですが、どれだけのサポートをしているか精密に記録を取ることにしました。記録表は何冊にもなっています。私たちの支援の量について実感しています。
このような支援は皆様の会費、賛助会費で支えられていますが、昨年度の赤い羽根テーマ募金を5月に共同募金会から助成金として頂きました。相談員の交通費、シェルター入所者の生活支援費として活用させて頂いています。赤い羽根テーマ募金のおかげで有意義な支援ができていると思っています。今回もどうぞよろしくお願いします。
赤い羽根テーマ募金 2018年1月~3月
振込用紙を同封しております。今回もよろしくお願いします。
第20回全国シェルターシンポジウム2017in東京 基調講演
第20回全国シェルターシンポジウムは9月30日~10月1日、東京都文京区シビックホールを中心に近隣の公的施設も使用して開催されました。
直前に衆議院解散となり、新党ができ後任問題等での大嵐のなかでの開催でした。これまで20年間様々なことがありながら毎年全国各地から民間シェルターを中心にDV防止法の制定・改正、性暴力禁止法制定を求める動き、被害者支援などを話し合ってきました。これまでは被害者の安全確保のためにクローズドで開催されてきましたが今年はオープンに参加者募集となりました。2日間で2.300人の参加でした。
基調講演ではオルガ・トゥルヒーヨさん(米国弁護士、コンサルタント)が「乗り越える力:当事者からみた暴力の影響とトラウマ」と題して話されました。オルガさんの両親はスペイン語しか話せない米国人でした。オルガさんは父親が母親への暴力をふるう目撃者であり、母親を助けようとした彼女自身も父親から継続的に性虐待に遭いました。さらに兄たち、兄の友人、父親の知人たちから性暴力を受けて育ちました。
彼女は父親の気持ちを探るために父親の目をみて感情を判断していました。彼女は母親が仕事をしている間隣人に預けられました。その隣人は大変優しく、知的な家庭で、隣人と同じ目をした人は敵ではないと判断する術を得、高等教育を受けることも知ることができました。その後、小学校での教員などの支えで生きのびることができました。もう一つの生きるすべは解離する(通常つながっている意識と経験を切り離す)ことでした。それによって苦痛を感じなくすることができました。彼女は奨学金で大学に進学し、司法省での弁護士として成功してなおトラウマに悩まされていました。信頼できる精神科医との出会いによって解離性同一性障害(かつては多重人格障害と呼ばれた)と診断され、治療によって幾人かの「わたし」は統合されていきました。
彼女は性暴力という過酷な経験をしてきても、普通で幸せな人生を送れることを示してくれました。後遺症としての解離性同一性障害についても具体的症状として、その乗り越え方について教えてくれました。このことに勇気づけられました。さらに、性被害者のサポーターとなることは誰でもできることも教えてくれ、「当事者こそが専門家である」とよく言われていることですが、オルガさんの話を聴いて強く思いました。また、性被害者が心で感じていたことを客観的に語ってもらえたことは、またとない機会でした。さらに印象的だったことは、幼児期写真や少女期、思春期の解離症状が現れている表情などの写真、大学時代、就職してからの写真、現在の人生を楽しんでいる写真が大スクリーンに投影されました。素晴らしい通訳を「レジリエンス」の中島幸さんがして下さいました。
これまでにも出会ったDV被害者や性被害者たちに解離症状がみられたことがあります。当時は知識もなく何となく話を聞くことしかできませんでした。少し解離について分かった気がします。
来年のシェルターシンポジウムは、11月に札幌で開催されます。
<プレ企画にも参加>
29日のプレ企画であるシンポジウム「アジアにおける『望まない妊娠』をめぐる相談と支援」に参加し、日本・台湾・韓国の支援についての発表を聞きました。アジアでは家族の考え方は似ていますが、台湾・韓国は未成年の妊娠・出産・その後の支援体制ができています。学業の継続、母子の生活支援が充実しています。個人の問題として放置されている日本との違いを知りショックを受けました。
シェルターから
Aさんが退所されたときに言われた言葉がとても印象的でした。
彼女はシェルター入所後、すぐに離婚調停を申立て、新たな仕事に再就職し、しばらくしたら新しい住まいを探し転居されました。私たちは彼女を見守るだけという支援しかありませんでした。
そのような自立した彼女は、「安全に生活できるところが有ったことでとても助かりました。住まいって人生をやり直そうと思った時とても重要ですね。もし、家を出るときやり直すための住まいがなかったら、わたしは今も怯えながら前の家にいたと思います」と言われました。彼女のように何でもできる女性が住まいの重要性を語られ、改めて住まい=シェルターの重要性を実感しました。
日本セーフティプロモーション学会を再び宇部市で開催します
辻 龍雄
来年2018年11月24日(土)~25日(日)に、日本セーフティプロモーション学会の第12回学術大会を山口大学医学部霜仁会館で開催します。どうぞ宜しくお願い致します。
セーフティプロモーション(Safety Promotion)は外傷(Injury)を防ぐことを、(1)科学的に検証し、(2)関連する多機関の協働によって、研究・実践する活動です。外傷(Injury)の中には、家庭や学校、地域社会での事故・事件、交通事故、自然災害による外傷、個人間暴力(殺人事件、傷害事件、DV、性暴力)、自己への暴力(自傷行為、自殺)が含まれます。
知られているのは自転車用ヘルメットを普及させる活動です。衝突・転倒事故の際にヘルメットの着用をしていることで事故に遭遇しても重篤な障害を軽減できます。日本でもようやく普及してきました。自転車用ヘルメットを普及させるためには、学校、警察、行政などが「協働」して普及促進を図ることが必要です。そして、ヘルメット着用率の上昇で事故による障害がどの程度減少することができたのかを「検証」し改善していきます。こうしたセーフティプロモーションの最初の活動はヨーロッパにおいて交通事故予防から始まりました。
日本でのセーフティプロモーション活動の普及上の問題は適切な日本語がないため、英文のカタカナ表記となり、難解なイメージを与えてしまうこと。英単語の意味する概念に相当する適切な言葉がないこと。例えばCommunityは日本の市町村とは異なります。Injuryも単に外傷ではありません。欧米で学問的に体系化されており詳細は英文です。この英文のテキストを理解することは非常に難しいこと、などが普及上の問題としてあげられます。
実際に、スウェーデンのカロリンスカ研究所で直接的にセーフティプロモーションの教育を受けた人たちが学会運営の中心となっています。しかし、日本で普及させていくためには日本人にわかりやすいことが求められます。そのため、学会では分担執筆による日本語のテキストの出版を現在進めています。
本学会には、DV・性暴力について研究者が集まり始めました。来年の宇部市での学術大会にはご参加いただき、是非発表をお聞きください。本学会は大学関係者でなくても、どなたでも参加でき、入会できます。学会入会につきましても、どうぞ宜しくお願いいたします。
【用語解説】 Safety Promotion(安全推進) → Injury Prevention(外傷予防)
Health Promotion(健康増進) → Disease Prevention(疾病予防)
【Safe Community】セーフティプロモーション活動を市町村レベルで行うことです。現在我が国には、亀岡市を嚆矢として、厚木市、十和田市、久留米市、鹿児島市など14の自治体がセーフコミュニティの認証を受けています。
【Safety Promotion School】日本発祥の学校レベルでのセーフティプロモーションの取り組みです。災害時の必要物資の備蓄も行っています。大阪教育大学附属池田小学校事件の後に設立された大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンターが拠点となっています。本学会の事務局もここにあります。平成29年9月末時点で、我が国には認証校・実践校が19校あります。日本から海外へも波及し、中国、台湾、英国に16校の認証校・実践校があります。文部科学省はこの活動を推進していますので、やがて全国的な展開になると思います