ニュースレターNo.3
2003/03/01
No.3
(1)NPO(非営利特定法人)法人化について
2003年12月9日、山口女性サポートネットワークは、特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けました。
社会的な「使命」をもち、社会的責任を自覚した個人が集まって行われる非営利組織の活動は、個人の志(こころざし)を社会化する仕組みであるといわれています。この度私たちは、定款で「この法人は、男女平等と基本的人権の尊重の精神に基づき、真の男女参画社会の形成を目指して、女性に対するあらゆる暴力を根絶することによって福祉の増進に努めることを目的とする」とうたい、私たちの志を明確化しました。私たち一人ひとりの力はちっぽけかもしれませんが、女性をおとしめたり、痛めつける理不尽な暴力と、それを温存しようとする不当な社会的圧力に対する素朴な怒りと人間としての悲しみをエネルギーとし、小さな活動を続けていくことを通して、真の平和で豊かな社会づくりへ参加したいと考えています。
ただの小さなボランティアグループであった私たちが、 NPO法人格を取得したいと考えたのは、DV被害者の支援活動を展開する中で、様々な契約行為を行う必要性が生じたからです。例えば、継続的な相談活動をするために事務所を借りたり、あるいはシェルターを開設しようとすると大家さんと契約する必要があります。しかし、単なるグループでは部屋は借りられませんし、銀行口座も開けません。行政の女性自立支援事業の委託をする場合にも、任意グループではなかなか難しく、社会的信頼を担保とする手段として何らかの法人格が必要になることが多いのです。
また、DV被害者支援活動についての全責任を、特定の個人が負うことは、事の性質上、あまりに過重な負担となります。集団として、活動の実態を支える<組織の強化>の必要性が高まりました。
一方で、法人格を取得すると、それだけ社会的責任は大きくかかってきます。非営利とはいえ、法人住民税は負担しなければなりませんし、当然、行き当たりばったりの事業活動は出来なくなります。とくに、会計原則に則った会計処理を行ない、求められる情報公開やアカウンタビリティ(説明責任)を果たさなければなりません。こういった組織運営上の手間は、素人集団の私たちのとっては、正直言ってかなりの負担となります。しかし、上記のす社会的使命をかみ締めながら、会員が持てる力を少しづつ持ち寄って、着実に歩んでいきたいと決心しました。
DV防止法ができて、各都道府県では、様々な被害者支援活動が取り組み始められました。しかし、山口県内には民間シェルターはまだ私たちが用意したものしかありません。電話相談では、行政の取り組みの手からこぼれた人々が、多くの悩みを寄せてきています。さらに、エスコート・サービス(各種機関への付添い援助)などは、公的援助の手の届かない、民間ならではの援助方法ではないかと思います。
私たちの活動が、きちんと地域に根をはれますように、ますます多くの皆さんの御理解と御援助を、心からお願いします。
(2)日本財団助成事業 フェミニストカウンセリング養成講座事業報告
★2002年度の「フェミニストカウンセリング養成講座in山口」は、主に相談業務担当の行政職員を対象に、7月から12月までの6回のコースで開催しました。講師はフェミニストカウンセリング堺の加藤伊都子さん、宮野由紀子さん、杉本志津佳さん、藤原暁子さんでした。
★今年度は、相談員の資質向上を目指して、フェミニストカウンセリングの理論及び技術の基礎を学びました。相談を受ける時に気をつけること、どういう受け方をすればよいのか、支援はどこまでできるのか、被害者のエンパワーメントのためのグループトレーニングにはどういう方法があるのかという基礎的なことを一通り研修したことになります。
★全コース参加者32名の内、行政職員は 20名でした。DV法施行にともない、各市町の相談窓口にはたくさんの相談が寄せられているにもかかわらず、女性行政を担う職員が相談業務を兼任している市町がほとんどで、しかもその職員は、相談を受けるための研修を全く受けたことがないという人が大半でした。
★講座終了後のアンケートによると、講座を受けた動機としては、仕事のため、スキルアップのためという回答が多く、講座を受けてあなた自身の意識は変わりましたか?という問いに対しては、相談の受け方が変わったが一番多く、続いてカウンセリングのし方が変わった、サポーターとしての意識が変わった、ジェンダー意識が変わったと、意識変容と共に技術の向上が伺えました。基礎的理論と様々な技術を組み合わせたこの6回の講座のもたらす効果が出ていると考えられます。
★また、県内相談員のネットワークづくりのきっかけとなったので、DV被害者支援に必要な理解が取りやすくなるとともに、今後は、県民の女性に対する暴力防止への意識を高めることにもつながっていくことが期待できます。
★2003 年度は、意識変容から行動変容へのプロセスを確実にするために、フェミニストカウンセリング理論のもとに、事例検討を主に取り扱い、実際の相談業務に役立てるような講座を開催する予定です。現在報告書を作成中ですが、この報告書は、県内各市町村に配布し啓発資料として活用して頂くとともに、2003年度開催予定の講座で活用する予定です。
★今後は、山口県内各地から参加した人たちが、研修の成果を各地で展開することが見こまれるので、県内の相談業務のネットワークを作ることになり、いつでも、だれでも、どこでも安心して相談出来るという被害者支援体制が確立できるのではないかと期待しています。
(3)知的障害の女性への12年間に及ぶ性的・身体的虐待(最終報告)
平成14年9月12日、事業主の妻には傷害罪で懲役1年6ヶ月、執行猶予3年の判決。控訴せず判決は確定しました。10月2日、事業主には準強姦で懲役3年6ヶ月の判決申し渡しがあり、同様に判決は確定しました。事業主に対する判決は「福祉関係機関の対応に問題なしとできず、有効な打開策が取れなかったことが、被害者に対する暴行、虐待の発覚が遅れた原因の一つにもなっている>と福祉関係機関の責任を弾じました。
新聞各社は判決を受けて、職親制度を監督する県庁に対して取材活動を展開。中国新聞10月3日「障害者暴行実刑判決/県の監督責任浮き彫り」、10月17 日「県、事実確認後も放置、“軽傷”警察通報せず」などの見出しが紙面に見られます。総括的な記事は、朝日新聞11月20日、「知的障害者の職親性的虐待事件」、「信頼悪用/関係者に衝撃」、「恐怖心につけ込む犯行/有効な打開策取られず」、「県/毎月面接、異変見ぬけず」と中見出しが続き、記事には、判決後、県は各社会福祉事務所に職親制度の緊急面接を指示、また、職親と障害者を別々に面接することや、委託更新時の調査をさらに強化することなどの対応を考えたいとしていると書かれています。
平成14年12月10日久米慶典県議、11日佐々木明美県議が、山口県議会一般質問でこの事件を取り上げました。議事録からの引用「事件の発見は被害者をサポートする民間人の告発からはじまり、逮捕にいたったということです。県当局はほとんど何の働きもしていなかったそうです。腹立たしく情けなく感じました。
12月21日に被害者の母親や支援者が私のもとにお礼に来られました。「私たちは(福祉事務所の)課長さんより年上ですから、警察へは行かなくていいんですか?と聞いたんです。そしたら、警察へ行くと莫大なお金と時間がかかるから行くなと課長さんは言われました。言ってないと言われているのですか?私たち4人ははっきり聞いています。」幸いなことに、被害者の女性は元気に働いており、施設では人気者になっているとも聞きました。母親の元に週末には帰っているようです。職親制度のもとでは、母親の電話番号さえ教えてもらえなかったという日々があったのですが・・・
この事件の逮捕までには、われわれ民間人からの通報にもかかわらず、山口県警察本部の警察県民課犯罪被害者対策室と捜査一課の迅速な対応がありました。県警本部捜査一課は、被害者の警察での事情聴取は嫌だという要望に応えて、ホテルの会議室での事情の聞き取りをしてくれました。女性捜査官が担当したのはいうまでもありません。
平成15年2月19日から、毎日新聞の障害者虐待問題取材班は、鹿児島の知的障害更正施設「みひかり園」での園生への虐待事件について報道を開始しました。連日の社会面での報道を見ると、20日には駐車場の支柱に縛り付けられた園生の写真が掲載されているにもかかわらず、22日には園側は保護者会で虐待を否定しています。警察が捜査を開始しない限り、水掛け論に終始するでしょう。
知的障害者の証言の信憑性が問題となる現在の司法システムの改善が求められるべきではないでしょうか。
(4)アサーティブトレーニング研修を受けて
2月8日から11日までの4日間「フェミニストカウンセリング堺」から講師を招き、支援者養成のための研修をしました。
アサーティブとは、自己を上手に主張することです。自分が感じたこと、わかったこと、疑問に思ったことを素直に相手に返すことで確認していきます。自分の思いや自分の感情を大切にしながら、同時に相手のしぐさ、目の表情をよく観ながら、相手が何を言わんとしているかを感じ取っていきます。
トレーニングは、問題提議者とトレーナーがロールプレイ形式で行ないます。問題提議者は自分が困っていることを相手に言いたいけれど、どういえばいいのか難しい。そのことを口に出して言うことで相手を傷つけてしまわないだろうかと、恐れている自分があることを知ってほしい。
場面を設定して、ロールプレイをしていく中で、問題提議者は徐々に何を一番伝えたいのか、何をしたいと思っているか、気づいていない自分の気持ちを知っていきます。言いたいことは口に出して言葉にして言います。それは、相手の言動を責めているのではなくて、自分の気持ちを相手に言うだけのことだったのです。たったそれだけのことがなかなか言えないのです。なぜでしょう?と考えていきます。
後半は、トレーナー体験に挑戦です。自分たちで提議者とトレーナーになります。トレーナーは、提議者が一番気になっていると思われることを確認して焦点を絞り込んでいく作業をしていきます。ここでは、どこまでも目の前にいる人の立場にたって聞いていくことが求められます。トレーナーはロールプレイをするときに一度はわざと壁を作ります。相手が難しい壁を乗り越えて思いを伝えられるようになるためには、必要なステップのようです。
私は、トレーニング研修に、自分の気持ちに向き合うことが大事との思いから取り組んだのですが、改めて難しい作業だなあと感じています。
講師は、「人の心に敏感になるより、まず自分の心に敏感になってほしい。自分の心を、いかに確信を持てるようにしていくかが大事です。先ずは自分の気持ちに向き合うことからでないと、他人の気持ちに向き合うことは出来ません。その中から、人と違う意見を否定しない関係ができていくでしょう。」とおっしゃいました。
私たちが、人を受け入れるには、自分たちの限界を知ること。一人一人がフェミニズムの視点に立って、いかにジェンダーにとらわれずに生きていくのかが、大きく問われているようでした。
これからもよりよいサポートをしていく上で、とても貴重な研修だったように思います。
(5)活動日誌
2002.9~2003.2 *月例会を除く
8/31~9/1 フェミニストカウンセリング養成講座(FC講座)
9/23 事務所移転
10/5~6 FC講座
10/9~10 DV連絡協議会
10/20 フリーマーケット
11/9~10 FC講座
10/23 日本NPOセンター、マイクロソフト社来訪
11/18 離婚調停エスコート
12/7~8 FC講座
12/24 離婚調停エスコート
12/26 離婚調停エスコートる
1/18 自助グループ・サポート研修
1/26 NPO認証パーティー
2/8~11 FC講座
2/16 1ケース シェルター保護
2/18 基本計画学習会でDVについての取り組み報告
2/21 1ケース シェルター保護