ニュースレターNo.8
2006/01/01
No.8
目次
(1)被害者の実態を知って!!
(2)全国シェルターシンポジウムより
(3)被虐待児童からDV被害者へ
(4)「女性の平安は子どもにとっても平安である。」
(5)活動日誌
(1)被害者の実態を知って!!
謹んで新年のお喜びを申し上げます。
本年もご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げます。
さて、保護命令[1]の申請を取り下げられた例や、二次被害について報告します。
Sさんは20代前半の女性で、夫は30代の公務員です。二人の間には2歳の子どもがあります。夫は几帳面な性格ですが、彼女への行動の監視はひどく、気に入らないことがあると全く口を利かなくなることもあり、経済的な締め付けもありました。最近では、些細なことから言い合いとなり、身体的な暴力が頻発していました。二度整形外科にかかっています。子どもも父親の行動に恐怖心を抱き情緒不安定になっていました。
Sさんは家を出て、接近禁止の保護命令を申請しました。彼女への審尋では自身の被害の内容を冷静に裁判官に説明しましたし、離婚の意思も固いことを述べました。裁判官にも相応に理解してもらえたと思っていました。しかし、結果的には保護命令の取り下げを勧められることになりました。
再度の審尋での裁判官の弁は、「夫は彼女への暴力に対してすべてを認め、十分に反省している。彼女との別居は認めている。その上、年若く身寄りのない妻のことを本当に心配している。彼女への暴力も骨折までのひどい暴力ではない。彼は公務員の職をなげうってまで妻に暴力を加えることはないだろう、保護命令の申請書を取り下げてはいかがか」ということでした。Sさんは、この裁判官に何を言っても伝わらないと思ったのか、取り下げに同意しまいました。これまで気丈に振舞っていたSさんは、絶望感で泣き出してしまいました。
夫は、一見、職業柄、良識ある知識人という好心象を裁判官に与えたようです。後日、夫は別居に同意したにもかかわらず、執拗に同居を持ちかけています。果たして、裁判官は彼の実態がわかっていたのでしょうか。
夫の彼女への執拗な監視に対して、裁判官の「彼が疑問を抱くようなことをしたのか」という問いかけにも疑問を抱きます。DV加害者は多くの場合、行動の監視を執拗に行うことで、妻に従属を強いるのですが、彼はその典型的なDV加害者の行動様式そのままです。裁判官の「身体的被害がひどくない」という判断にも疑問を抱きます。一見被害が軽そうに見えても、当事者にとっては苦痛そのものです。この暴力は今後ひどい暴力に発展していく可能性を孕んでいます。今回の場合、裁判官が男性で、現行DV法の保護命令対象が、身体的暴力に限定されているということもありますが、やはり「司法当局の偏見」という壁を感じざるをえません。
また、別の件ですが、Tさんは夫からすざましい身体的暴力にふるえていますが、彼女の両親にも暴力が及んでいます。彼女は行政の相談窓口に、彼女と子どもの緊急保護と同時に親の保護を求めました。結果的には行政は動いてくれましたが、「親は少々痛い目にあってもしかたがない」という行政の一言に、彼女は一挙に信頼感を無くしてしまいました。DV法には親の保護までは入っていませんので、行政としては対応に苦慮されたものだということは理解できます。行政のせっかくのご苦労にもかかわらず、何気ない一言で二次被害を与えています。
現行DV法の限界に対して、司法や行政の研修など細部にわたって見直しがされることを願ってやみません。
[1] 保護命令とは、被害者を加害者から守るもので、地方裁判所に申請する。加害者が被害者に近づくことを禁じる接近禁止(6か月)と、被害者がこれまで住んでいた家から加害者を一時的に退去させることができる退去命令(2ヶ月)がある。
(2) 全国シェルターシンポジウムinあいちより
基調講演 「加害者プログラムと被害者の安全確保―米・英の経験から学ぶ」
講演者 マージョリー・D・フィールズさん(元ニューヨーク州高等裁判所判事、弁護士)
1. はじめに
DV加害者プログラムを実施するにあたって、最も重要な事は被害者の安全を手に入れることである。加害者ではなく、被害者の女性が良質のサービスを受ける事ができてこそ、はじめてDV加害者プログラムは、良い結果を生み出すのである。
つまり、離婚手続きと保護命令にアクセスしやすいことが、DV被害者の安全確保にとって最も大切である。離婚手続きや民事の保護命令は、DV対応が法的強制力をもって行われ、子どもの扶養・配偶者への支援・財産分与の制度が整備された場合に効果がある。アメリカではこれらの法律が改正されて、親密なパートナー間での殺人・暴力が減少した。
現在のところ、加害者介入プログラム(BIP)、怒りの制御プログラム、家族システムやカップル・カウンセリング、グループ・セラピーなどの方法が、DV加害者を更生させ、常習犯を減らした、という研究結果はない。それどころか、これらのプログラムは暴力を止める効果すらないとされている。
アメリカやイギリスでは、加害者プログラムと加害者の保護観察・行動の監視といった刑事司法手続きとを同時に行い、被害者の安全を実現するために民間グループ・裁判所・法執行機関(警察)が連携して被害者をサポートすること、その上で加害者へのカウンセリングも実施する、という方向に変わってきている。加害者に対してその後も保護観察が効果をあげている。
2.加害者の処罰のありかた
処罰にはさまざまなタイプの加害者に対応する「回復」と「治療」が含まれるべきだ。このほか、保護命令や加害者教育・治療とを組み合わせた「保護観察付執行猶予」というものがある。刑務所への収監の代用となるもの、つまり収監中の加害者にも治療と教育は必要である。
DV加害者には地域で2年間「集中的に保護観察を受ける」ことの方が短期間の収監を繰り返すより効果的である。投獄するより税金の節約になり、加害者は仕事が出来るので妻子の生活の保障が出来る。保護観察官は「法律の執行権限を持つ公務員」であり、逮捕の権限をもっている。保護観察官は予告なしに加害者の住居や職場に訪問する他、保護観察局で加害者との定期的な面接を行なう。DV加害者が保護されている家族に近づこうとした場合には、電子モニターで警察と被害者に通報され記録される。保護観察及び保護命令違反は必ず逮捕され、関係者に報告され刑務所に拘置されるか、より制約の多い形で保護観察期間を延長され、条件を守る加害者には保護観察期間の短縮が認められる。
「DVは犯罪である」。妻への暴力は、社会に対する罪である。DV加害者は、他の暴力犯罪の加害者と全く同じ刑事手続きによって拘束されるべきである。アメリカでのDV加害者に対する判決は、DV裁判所(米で300箇所―2003年現在)で行われている。そこでは、刑事訴訟・離婚訴訟・子どもの監護権・養育・配偶者の扶養・損害賠償・財産分与、これら全てについて同じ裁判官が判決・決定を下している。裁判官・書記官・裁判署調査官は、DV問題やDVの子どもへの悪影響について、特別なトレーニングを受けている。
3.DV被害者へのサービス
DV被害者と子ども達の安全確保のためのサービスが提供される必要がある。さまざまな機関が連携・協同した地域サービスを通してDV被害者と子どもたちの安全を確保すること。医療ケアとDVサービスへの通報や連携。安全に過ごすための相談とアドバイス。一時避難所(シェルター)。カウンセリングと精神的な支援。 子どもと配偶者を支援する法制度。入りやすい住宅の提供。女性の雇用機会の平等。職業訓練。
4.保護命令
保護命令は、暴力や脅迫の防止に役立っている。それらは刑事訴追の代わりとしては最も拘束は弱いが、政府にとっては最も低コストで済む。アメリカでは、何年もの間保護命令が出さる。その期間中は、加害者は自分の持ち家であっても売ったり近づいたり出来ない。被害者は子どもたちが大人になるまで自宅で安全に生活できる。ある州では終身の保護命令を出す事が可能である。2003年ニューヨーク州では、初回の保護命令が1年から3年に延長された。幾つかの州議会は、裁判官は申し立て受理後、一日以内に「緊急保護命令」を出せる法律を制定した。裁判官は申し立てを調査し緊急命令の必要性につき申立人に審尋し、迅速に裁下しなければならない。日本の保護命令を外国と同じくらいに効果あるものにするには、次の点を変える必要がある。
① 保護命令期間の延長-5年あるいは終身に ②離婚後も保護命令を有効にする③緊急、即時、かつ暫定的な保護命令の創設 ④居住用住居が妻や彼女の家族の所有である場合には、加害者への永久の退去命令を可能にすること⑤住居が加害者の家族の所有である場合には、加害者は妻と子どものために相応の住居に必要なコストを支払う事 ⑥保護命令による子どもの養育費の負担 ⑦保護命令の対象を全ての家族構成員とすること ⑧保護命令により、被害者に子どもの監護権を認め、加害者には面接交渉権を認めない ⑧保護命令により、加害者から被害者へのあらゆる手段の連絡を禁止する事 ⑨加害者には保護命令手続きに関する妻の弁護士費用を支払うよう命じる事 ⑩保護命令の内容に法的強制力をもたせ、命令違反の場合にはDV加害者に対する行動制限を強化すること ⑪法により警察に保護命令の執行権限を可能にすること。また、より簡易で迅速な離婚手続きの整備も必要。
5.子どもの養育
子どもの養育費を強制的に取り立てられる制度が必要である。雇用主が給与から天引きし、直接母親に支払うよう命令する。将来、約束を守らない事を防げる。未徴収のために訴訟を繰り返すことがない。
6.一般への警告、一般啓発
刑事裁判手続きのDV対応の中に、一般の人に警告を与えるというものが入っている。ロンドンでは地下鉄の中に「DVは犯罪である」と書かれたポスターが貼られている。「DVは間違っており犯罪行為である」という原則をはっきりと打ち出している。「DVは≪卑怯な≫ことだとあなたは言えますか。」DVは暴力犯罪行為である。DV犯罪を減らす前提条件はDVが暴力犯罪であるということが社会の共通の認識となる事である。
7.まとめ
介入プログラム、怒りの抑制プログラム、家族システム、もしくはカップル・カウンセリングやループ・セラピーが、DV加害者を改善し、常習犯を減らすという結果を示している研究はない。DV加害者プログラムを実現するために、最も重要なことは被害者の女性と子どもが良質のサービスを受けられることである。これは、政府とNGO双方にとっての優先課題である。
第1分科会報告
第1分科会「基本計画を使いこなそう」では、愛知県健康福祉部医療福祉計画課主幹の吉田良平さんと多摩でDVを考える会の遠藤智子さんにより、愛知県DV防止基本計画の報告ならびに意見交換が行われました。
愛知県の基本計画の特徴は、基本目標7「市町・地域における支援」で、DV被害者がもっとも身近に相談できる市町村の役割は大変重要で、しかも最初の相談窓口での対応によって安心して相談ができる場合と全く反対に二次的、三次的被害に遭うことになるので、市町村の相談体制の強化を目指したということでした。そして、今回基本計画に携わって、「DVの問題は女性全体への暴力だということがわかった。」と感想を述べておられました。
愛知県の基本計画では、今後の取り組みが実施、整備、養成という言葉で締めくくられており、市町村に働きかけるというあいまいな言葉が無いため、3年間で必ず実行するという姿勢がうかがえました。教育・啓発の分野では、人権研修という言葉が消えDV理解という具体的な人権問題として取り組もうとしています。学校教育でのDV防止プログラム導入についての指摘に対しては、ぜひ検討したいということでした。また、発見・通報の分野では、医療関係者への研修とあり、発見・通報のために医療関係者の協力が必要不可欠だとしています。そして、DV被害者保護の充実では、一時保護中の生活が被害者にとって将来に向け展望を見出す場となるように関係機関を含めた協議の場を設置、保護施設では、DV被害者への自立に向けた支援の充実を図るため関係機関の連携による検討会議の実施、自立のためには、県営住宅の目的外使用の実施、DV被害者をサポートする支援者を養成、アパート等への入居で保証人の債務を保証する補助を実施、DV被害者へのカウンセリングについて検討というように、被害者の状況に合わせたきめ細かい対応を目指しています。
山口県でも、今年度中に基本計画が策定される予定で、近くパブリック・コメントを実施するということです。ぜひ、山口県のホームページから基本計画をご覧になられて、パブリック・コメントを出していただきたいと思います。
(3)被虐待児童からDV被害者へ
園生 桃子
北風が吹く季節になったこの時期、相次ぐ女児殺害事件に、世間の親子は震撼させられています。また、最初は特別にセンセーショナルに取り上げられた実の親による「児童虐待」事件も、あまりに日常化してしまい、「またか」と顔をしかめる程度に、こちらの神経が鈍磨せざるをえない状況です。幸せな家族が鍋を囲んだり、クリスマスケーキのろうそくに灯をともしている時、私たちの身近にも、親や夫の罵倒や暴力におびえ、肩を丸め息を潜めて暮らしている子どもや妻が案外隠れているのです。
夫婦や恋人という大人同士の関係で発生するDVであっても、被害者がその関係から逃れにくいことは、サポートネットの活動において実感するところですが、輪をかけて被虐待児は逃げられません。親に捨てられた子は、基本的には生きて行けないからです。
いよいよ、その家庭が持ちこたえられなくなったとき、家族は離散し、子どもは児童養護施設に入所保護されます。昔は「孤児院」と呼ばれていた児童養護施設ですが、今は「孤児」は殆どいません。そのかわりに、「被虐待児」が増えています。「被虐待児」は、1回や2回折檻されたとか、一時期いじめられたと言うものでなく、DV 被害者の妻と同じように、何度も何度も繰り返し、心身の虐待の経験を持つ子どもが多いのです。
被虐待児を保護している施設では、職員の対応が大変です。というのは、被虐待児は、「じらし行動」と言って、暴言をはいたり、職員に殴りかかったり、友達をいじめたりと、わざと自分が叱られたり、かえって人から殴られるような緊張場面を無意識に作りだす癖があるからです。そうやって、その時に周囲の人がどのような態度をするか、本当に自分を愛してくれるか確かめようとするのです。というのは、彼らにとって「殴られること」と、「愛情を受けること」が表裏一体となっていたからです。DVの被害者が、殴られも殴られても思い直して関係を継続させたり、折角逃げさせたのに自分から連絡をとってしまうのとよく似ています。彼女たちも、加害者から離れると生活できないし、殴られること以外は愛されていると思っているからです。
被虐待児の癒しには、「暴力を受け入れなくても、その子が受け入れられること」「暴力が伴う愛は、本当の愛ではないこと」を体感する経験を、繰り返し与えていかなければなりません。しかし、それには信頼できる他人との出会いが必要です。時間もかかりますし、向き合った人の多大なエネルギー(愛情)も必要です。職員の大変さはここから来ます。
被虐待児が何の支えもなく社会に出たとき、饑餓的に愛情と居場所を求めるのは必然でしょう。そして、まるで吸い寄せられるように、今まで愛してくれたパターンの男性と出会います。それが暴力と愛をセットで提供するDV夫なのです。こうして、暴力の関係が連鎖します。
(4)「女性の平安は子どもにとっても平安である。」
辻 龍雄
過去6年間に山口県警察本部の依頼で警察官を対象とした講演を15回させて頂きました。私のような民間人が、こうした機会を頂くことは極めて稀なことだと思います。警察との連携を深める機会を頂けることに感謝しています。
平成13年10月、山口県は「DVの根絶に向けて」というシンポジウムを開催しました。このシンポジストの人選の相談に県庁の方々が、私のところに来られました。私は、その時に、DVの問題では警察との連携が一番大事です。是非、県警本部からのシンポジストの参加を、とお願いしました。
当時は警察官の不祥事が報道されている時期でした。出席された県警本部の課長補佐は、失言がないように、さぞ、緊張されて出席されたことと思います。幸いにして、揚げ足取りのような質問も報道もなく、成功裏に終わりました。聴衆は、山口県警察がDVの問題に積極的に取り組んでいく姿勢であることを知ったと思います。
警察は、暴力に対処するプロです。この組織が動かずして、DVも、それに伴う児童虐待も、現実的な解決に向けて動きだすことは無理だと思います。
私は、ニュースレターに具体的な事例を紹介してはという提案をしました。まだ、どこまで書いていいのか、十分な議論は尽くされていません。この会の賛助会員の方々に、私たちが取り組んでいる、やり場のない、解決の見えない、どう対処したらいいのか全くわからない問題を紹介すること、訴えることが、私たち自身のために、求められている時期ではないかと思うのです。私たちは、専門家であるはずなのですが、実は、絶えず迷い、悩んでいます。
この穏やかな山口県にも、信じがたいような「家庭」が存在しています。家庭という言葉に、私たちは安らぎを感じますが、そうした私たちの想いを打ち砕く、信じがたい「暴力の家庭」が数多くあります。そして、大事なことは、被害者は、男でも女でもなく、子どもたちだということです。
スエーデンの街の中にはDV・児童虐待についてのポスターが数多く張り出されています。最後に、そのポスターの言葉を引用します。
「女性に対する暴力は子どもにも影響する。」「女性の平安は子どもにとっても平安である。」
(5)活動日誌 2005.7~2005.12
*月例会を除く
7月 8日 ニュースレター印刷 発行
7月12日なんでもネットワーク下関でDV講演
7月14日 自助グループ
7月20日 周南市川崎公民館DV研修 講師
7月24日 グループトレーニング、世話人会
7月28日 配偶者暴力被害相談支援者連絡会
8月 4日 被害者弁護士相談付き添い
8月22日 自助グループ
8月28日 グループトレーニング、世話人会
9月 1日 入居者受け入れ
9月17~18日 全国シェルターシンポジウムinあいち
9月19日 グループトレーニング、世話人会
9月26日 自助グループ
10月5日 入居者引越し
10月7~8日 日本女性会議ふくい
10月8~9日 山口県男女共同参画フォーラム
10月8~9日 アートフルやまぐち
10月17日 自助グループ
10月25日 配偶者暴力被害相談支援者連絡会
国際ソロプチミストアメリカ連盟より贈呈式
日本女性会議分科会プレゼンテーション
11月 2日 山口プレ地方協議会
11月18日 女性のためのDV講座
11月24日 自助グループ
11月25日 女性のためのDV講座
11月26日 国際ソロプチミスト防府チャリティーバザー
11月27日 グループトレーニング、世話人会
12月 1日 周南市で面接
12月 2日 女性のためのDV講座
12月18日グループトレーニング、世話人会