ニュースレターNo.10
2007/01/01
No.10
目次
(1)はじめに
(2)全国シェルターシンポジウム2006inはこだて報告
(3)日本女性会議2006しものせき 報告
第4分科会 「DVとそれが子どもに与える影響」
(4)国際ソロプチミストアメリカ連盟より6500ドルの支援
(1)はじめに
新春のお慶びを申し上げます。
早いもので、DVホットラインを始めてから6年が経ちました。これまでの被害者に対する対応について振りかえってみました。1ケース毎に丁寧に対応してきたという自負はありますが、発足当初は、DVが社会的に認知されていなかったことと、精一杯対応しても力不足だったことは否めません。特に精神を患わざるを得なかった被害者たちに対する対応には苦慮しました。いくつかのケースにあたるうちに、被害者独特のうつや攻撃性なども少し理解できるようになりました。
しかし、専門家にここで指導を受ける必要性を感じて、内閣府配偶者からの暴力被害者支援アドバイザー派遣事業でケース検討会を行いました。竹下小夜子精神科医を講師に派遣してもらいました。検討したのは、4ケースです。
自殺願望の強い被害者が自立できなかったケースでは、主治医の精神科医の理解がなかったことを指摘され、どう一緒に研修に加わってもらうかのノウハウを教えてもらいました。入所退所を繰り返しながらも、自立に向けて努力しているケースでは、いかに民間シェルターが彼女の支えになってきているか、今後も支えて欲しいというメッセージを頂きました。妄想幻聴のあるケースでは、精神病院に受診させる方法について教えてくださいました。電話相談だけで、日常的な話を聴いているだけのケースでは、精神科医としてはこのような団体があることをとても感謝している、話を聴きつづけて欲しいと言われました。
このケース会議では、電話相談の限界も感じながら、シェルター活動もこれでいいのか、と思いながら続けていたことも、継続することの意義を感じた一日でした。竹下小夜子氏からは、大変力強いメッセージをいただき、2007年に向けて、自信を持って年を越すことができました。
「日本女性会議2006inしものせき」では、女性への暴力分科会を担当しました。この分科会には、全国から200人近い参加者とともに、子どもへのDV被害を主眼に弁護士、精神科医、小児科医の方々とともにシンポジウムをしました。講師からは新しい視点での問題の指摘や、実践について教えていただきました。
その時の講師にお招きした小児科医金原洋治氏からは、山口県小児保健研究会での発表をご提案いただきました。みんなで事例検討をして、文章化し、小児保健研究会で発表を行うことができました。一つの出来事から、神経細胞が伸びていくようにネットワークが形成されていくことを経験しました。このようなネットワークをたくさん伸ばしていきたいと思います。最後に、日本財団の助成を受けて、シェルターのトイレの改修を行いました。これまでの古い暗い和式トイレからウォッシュレット付きのきれいな明るいトイレになりました。シェルター入所者が気持ちよく使えることでしょう。日本財団の支援に感謝申し上げます。
(2)全国シェルターシンポジウム2006inはこだて
2006年11月25日~26日 函館市民会館
DVを許さない!「自治・人権・協働」
基調講演 「垣根を越える NGO、行政、地域の連携によるDV防止へ」講師:アグネス・チャン(NPOエイジアン・タスク・フォース、 アウトリイチプログラム開発責任者)
ボストンでの過去30年にわたってのDV支援対策について語られました。それを進めるために、民間と行政との共通理解とネットワーク―による強い協力体制が重要であること、さらに司法介入と予防教育の必要性を語られました。
さらに、地域では意識啓発活動を通してDV施策に影響を与えるための方法として、新聞に投書、啓発イベントの企画、募金活動、パープルリボンの配布、10代のデートDV作文コンテストやアート展の開催、そうした各種イベントに議員やメディアを招待する等などを挙げられました。
「この30年間に、多くのことを達成してきて、ようやく、DV根絶に向けた共通理解が、NPO、政府、地域のあいだで形成されてきました。しかし、まだまだギャップもあります。活動家である私たちが先頭にたって、被害者と家族のために声を上げ続けなければなりません。それも、一致団結し、声を一つにしなければなりません。パートナーシップを広げながら、それぞれの専門をこえて、相互の信頼を築いていかなければならないのです。」と、熱く語られました。
分科会5「自立支援にかかわる当事者、支援団体からの提言」
「パネリスト」 Saya-Saya共同代表精神保健福祉士 松本和子 カウンセラー 野本律子
民間支援団体「女性ネットSaya-Saya」は、社会とのつながりと就労の支援を地域でやってきました。サバイバーのつながりとしての器となるレストラン、相談室、グループという仕組みを有機的につなげ、その器を使ってサバイバーのコミュニティができていくことが自立支援と考えています。
Saya-Sayaモデルの試みと限界を提供して当事者、民間支援団体からの提言とします。
そして、これからの課題として公的支援、他支援団体との連携と役割を模索することが、被害者のプロセスをサバイバーのプロセスへ、つまり相談から自立のプロセス支援となると考えています。
分科会7「DV被害にまきこまれた子ども」への現場での対応と支援 ・SUPORT OF THE CHILD はシェルターと連携して、母親同士の語らいの場である。それによって、DV被害者は自分一人ではない、ということを自覚してもらう。「暴れる子ども・暴力をふるう子ども」は「すでに充分被害を受けてた子ども」というとらえ方をしている。10回コースで、研修をしている。
・子どもの居場所「ぽけっと」は、2005年から土曜日に被害家庭の子どもに子どもの居場所を提供している。現在2歳から14歳までの子ども14人をスタッフ20人で対応している。市内の幼稚園で子どもとスタッフが楽しんでいるフィルムを紹介された。
・青少年自立援助ホーム「ふくろうの家」シェルターに入れない15歳から20歳までの男の子対象のスタートのための施設である。函館市に昨年の10月に初めてできた施設で、寮長が有名人なので、寄付金もたくさん集まった。7名のスタッフで1人が専任で運営している。政府はこのような施設を増やしていく方向にある。
(3)日本女性会議2006しものせき
2006年10月7日9:00~11:30 海峡メッセ801
第4分科会 担当(特)山口女性サポートネットワーク
「DVとそれが子どもに与える影響」
【コーディネーター】 川喜田好恵 大阪ドーンセンターDVカウンセラー
【シンポジスト】 長谷川京子 弁護士
金原洋治 小児科医
竹下小夜子 精神科医
小柴久子 山口女性サポートネット理事
[目的] ドメスティック・バイオレンスは、ジェンダー社会がもたらす女性への人権侵害であり、男女平等社会の実現の大きな阻害要因となっている。法的な整備が始まり、DVが人権侵害であるという認識は広がりつつあるが、依然として女性たちは厳しい状況にある。また、女性ばかりでなく、子どもたちへの被害が大きいことも見逃せない。精神科医、弁護士、小児科医、相談員の立場からDVの背景にあるジェンダー問題、法律面の課題、子どもへの影響などを検討し、解決策を模索した。
[小柴久子] 現場での報告として、シェルター入居者および子どもの状況について話した。DV被害者は精神的なダメージを受けていることが多く、十分な子どもの世話ができないこと、さらに母親が暴力を受けることによる被害で子ども自身も多動やうつ的傾向があるという報告をした。
[金原洋治医師] 子どもと母親の愛着形成のサポートの視点から愛着障害になるものとして、DVや虐待が一つの要因になっていることが挙げられる。それらを早く見つけ、アンテナを高くすることによって、虐待の一次防止ができるのではないか。さらに、市民団体「なんでもネットワーク下関」での警察、弁護士、児童相談所、医師、子育て関係者によるネットワークで連携を取ることによって、虐待が起きた場合早期に対応ができるようになった。さらに、ここで虐待予防ができるのではないかと考えている。このような民間の活動が大事である。
[竹下小夜子医師] DVはストレスやアルコール依存が暴力の原因とはいえない。DV加害者は敢えて暴力を選んでいるからである。「虐待の連鎖」がよく言われるが、実際30%しか連鎖は示されていない。虐待児が成人して暴力を繰り返すか、否かの違いについて、臨床家のアリスミラーは、だれか一人でもいい、本人の本当の気持ちを理解し受けとめてくれる人がいてくれたかどうか、これが決定的な違いを生むと指摘した。その誰かは、血のつながりの有無や性別も問わない。そういうだれか一人がいることが、子どものましな選択能力を発揮させてくる可能性がある。
「長谷川京子弁護士] 児童虐待防止法に「DVを見ることや、その場にいることすら虐待である」という文言が加わったことは画期的である。DV法の課題として、被害者が逃げ出すことが前提であるが、被害者は逃げ出せないところに問題がある。また、DV犯罪(夫や恋人からの暴行傷害を受けること)にもっと光を当てないと、DVは無くならない。子どもの面接交渉については、DV事案では慎重に考えるべきだ。過去DVがその子どもの成長、発達にどのような影響を及ぼしたのか、子どもが一緒に暮らしている親の精神状態に面接交渉が与える影響はどうか。また、子どもとDV加害者を交流させることが、今後の成長、発達にどのような影響があるのかなどを慎重に見極めた上で、さらに子どもの意向を聴取して、子どもの最善の利益に従うことになるのか否かを考えて決定すべき問題である。
[川喜田良恵コーディネーター] 日本DV情報センターで訳されたマサチュセッツ州の子どもの面接規定についてお知らせしたい。スーパーバイザーのいる面接センターで行う、子どもの成長に合わないプレゼントの禁止、面接の主役は子どもであり、子どもを取り戻す機会ではないことが、明記されている。子どもにこれ以上傷を与えないための細かなルールがある。「さらわれ」の防止策もとられている。さらに、心理面にも配慮され、身体的接触は最初のみ、握手や抱擁も子どもが不愉快な思いを持たないように、ささやきや小声、ニックネームも禁じられている。このくらい注意が必要だということをご理解いただきたい。
(4)国際ソロプチミストアメリカ連盟より6500ドルの支援
国際ソロプチミスト防府を通じて、国際ソロプチミストアメリカ連盟「女性と女児のための ソロプチミスト・クラブ助成金」から「DVシェルター支援」として、6500ドルを頂きました。
今年度はすでに5家族6人が入所しております。県の委託が3家族4人いますが、個人負担の人が2家族おられます。このお金は、委託にならない人たちと、シェルター維持費として活用させていただきます。ありがとうございました。