ニュースレターNo.12
2008/01/01
No.12
目次
(1)求められるネットワーク
(2)DV被害者サポーター養成講座
(3)DV根絶国際フォーラム・全国シェルターシンポジウム2007報告
(4)被害者心理・支援者心理
(1)求められるネットワーク
新春のお慶びを申し上げます。
昨年(2007年)4月からは、困難なケースをいくつか引き受け、大変苦労をしました。いずれの被害者も精神的な困難を引き起こしておられました。実際の身体への危害は少ないのですが、支配への精神的圧力は大きく、うつや不安症を発症し、ひどい時は解離も起こされていました。加害者の追いかけも激しく、安心・安全を確保することに苦労しました。そのような中で、ネットワークを作ることで、うまく問題解決ができた例がありました。
Aさんは、私たちのシェルターを利用した後、B市に転居しました。Aさんに関しては、頼れる身内がいないので、私たちのサポートが唯一の頼りでした。まずは、B市のDV相談員Cさんと精神科医のD医師と繋がりをつけました。
Cさんは、精神的な相談、問題解決のための行政的サポートを受けられるように支援をしてくださいました。Aさんは、B市での生活保護も得られ、仕事もパートから正採用となり、順調に生活ができたかに思えました。しかし、それもつかの間。あっという間に過ぎた保護命令期間。保護命令が切れると同時に、加害者からのしつような追跡が始まり、Aさんは不安と恐怖で倒れてしまいました。
Aさんの入院で、こどもたちは児童相談所へ緊急保護されました。再度の保護命令が発令され身の安全が確保されるまで、多くの人たちがネットワークしてかかわりました。Aさんを取り巻く環境の中には、こどもの通う学校職員、B市の相談員、B市の子ども家庭課、B市の生保のケースワーカー、弁護士、加害者のいる警察署、B市の警察署、児童相談所、医師、病院のソーシャルワーカー、民間の私たち、これらがうまく機能しました。医師によるAさんの不安や恐怖からくる身体的症状や行動に対する説明もあり、Aさんへの理解が得られました。
多くのDV被害者が生活を始めようとしても、なかなか必要な支援や理解が得られなくて生活ができなくなって、結果的に元に戻ってしまわざるをえなくなります。しかし、今回のAさんには、DV被害者のケースは始めてという人が多かったのですが、B市にあるこども虐待のネットワークに私たちも加わることができ、Aさんをサポートすることができました。このように、専門家が専門分野を活かし、それぞれの機能を果たしていけば、DV被害者が安全に安心して暮らしていける体制を作ることができることが分かりました。私たちが、このようなネットワークをどれだけ作れるかが、今後の課題です。
(2)DV被害者サポーター養成講座
当ネットワークは、平成14年の設立以来、10人足らずという少ない相談員で被害者のサポートにあたってきました。様々なケースに遭遇し、経験も積み重ねてきましたが、限られた人数でのサポートには限界も否めないのも事実です。スタッフの増員はかねてよりの課題でもあり、又、養成講座を開催することは、現相談員にとっても学び直しとなり、さらなる支援の充実につながるものです。
やまぐち女性財団:男女共同参画推進活動支援事業後期申請に応募し、DV被害者サポーター養成講座を、以下の内容で実施しました。講座の目的を、①DV被害者についての理解、②DV被害者サポーターの養成、支援者を増やす、③現在被害者支援をしている者のエンパワーとし、内容は3部形式で、①基礎的学習:毎回自己との点検をしながら進めていく、②ワーク:相談を受けることについてワークを通して学ぶ、③被害者支援についての研修という構成としました。
DVについての基礎的な研修から、被害者とこどもの問題まで4回にわたって考え、学び、5,6回ではさらに実際のワークを通して「聞く」とはどういうことか、どのような応対が考えられるか、様々なケースを想定しての体験学習を行ないました。相談者と支援者との望ましい関係、共感と同情の違いなどともすれば支援者が陥りやすい感情についても改めておさえることができました。電話や面接などでのメッセージの伝え方についても、視点の持ち方でずいぶん違いがあることを学びました。さらに被害者の生の声(以前、当法人が支援した人で、声を発するまで回復された人)を聞く機会にも恵まれ、力づけられました。又、今回の講座では幅広く女性への暴力を捉え、震災時に女性が被る暴力の問題、さらにアルコール依存とDVの関係についても学びました。最終の2回は、内閣府アドバイザー派遣事業により精神科医の竹下小夜子氏を招き、2日間にわたり心理的回復支援のスキルの講義およびワークを受けました。臨床に基づいた講義で中身の濃い学習が出来、レジュメは貴重な資料になりました。
新規受講者のみならず、現相談員にとっても内容・講師ともに充実した講座で、DV被害者の支援者として活動していくうえで実効性のあるものでした。今回の講座をとおして改めて私たちの使命感を共有できたこと、これからどのようにサポートしていけるかの指針が見えてきたことが収穫でした。支援の仲間を増やし、さらなる被害者支援の充実を目指し、活動していきたいと考えています。
(3)DV根絶国際フォーラム・全国シェルターシンポジウム2007報告
期日:11月23日~25日
会場:幕張メッセ国際会議場、OVTA(国際能力開発センター)
11月23日
国際フォーラム「女性への暴力根絶にむけたアジアからの発信」
基調講演「女性への暴力根絶に向けた世界の取り組みと日本の課題」
ハンナ・ベアテ・ショップ・シリング〈国連女性差別撤廃委員会前副議長〉
1.性差別は暴力の一形態である。
人権の立場から―国家の責任が問われる。
2.国連の取り組み
93年 ウィーン宣言、女性に対する暴力撤廃宣言
95年 北京世界女性会議 行動綱領に「女性への暴力」が入った このような国連での動きの促進力はNGOの力である。
今後もその重要性は増す。それが期待されている。
シンポジウム:「アジア各国と日本のDV根絶政策」
中国、韓国、モンゴル、香港、日本の発表があった。どこの国もDV法ができているが、各国の運用、適用範囲などさまざま日本のDV法も検討の余地あり。
11月24日 参加した分科会
■ 法制度の整備にむけて 韓国、台湾、日本でのDVに対する取組みについて語られた。台湾では、裁判所に民間団体によるDVサービスセンターが設置されている。DV抑止のために、法律だけでは充分ではないので、小学校6年生の社会科の教科書にDVが取り上げられて、教育分野から抑止効果を狙っている。
韓国では、加害者に対して、3ヶ月10回の研修を受けることで、刑事罰を猶予される制度がある。その効果に対して、逆に悪質化させている、暴力を減らしているという二分された意見がある。
日本では、デートDVに対してはDV法が使えず、ストーカー規制法で対応しているが、そのストーカー規制法も実施率が低く、成果をあげているとはいえない。
■ DV被害当事者である子どものケアと支援
DVは子どもが目撃している、いないに関わらず、子どもへの心理的影響は大きいという点において、児童虐待である。子どものトラウマをきっかけとして生じる精神疾患を救うために、早急な継続的支援が必要である。DV被害のこどもの相談窓口を作る必要がある。
■ 障害をもつ女性への支援
ここでは、精神障害者、精神疾患のある人への対応について学んだ。DV被害を受けると、暴力の結果として自殺念慮・気分障害・不安障害等さまざまな精神的不調に悩まされる。被害者の社会復帰を考える場合に、精神健康障害が長く残存するため、社会的活動に影響を与える。そのため、被害者にはカウンセリングをはじめ、長期的な精神的サポートや自助グループの必要性が語られた。行政の援助についての説明もあった。
■ 自立支援にむけて―千葉県の取り組みから
千葉県DV基本計画は、DV被害者、支援団体等県民の声をもとに策定した。
参加したワークショップ
■ 高齢者DV
高齢者虐待の種類は、ネグレクト、暴言、暴行、経済的・・・とあり、DVと同じである。被害者の75%が女性である。加害者は介護者であり、息子42%と高い。介護度が高いほど、認知症の重度な人ほど虐待が及びやすい。介護サービスを受けていない居宅高齢者は、DVや虐待が潜在化し発見が難しい。介護サービスを受けている人は問題が発見されやすいが、担当者がDVについての知識がないと発見が遅れる。認知症に対する理解を深めていく必要がある。
■ デートDV
レジリエンス、ホワイトリボンキャンペーンから中・高校生向けのデートDV予防講座の進め方の発表があった。いずれも、DV=パワーとコントロール、ジェンダー被害であること、ロールプレイの活用についての発表があった。
■ ハンドリラックス
ボディショップでのリラックス方法として、実演を交えて講習があった。
11月25日 国際シンポジウム
コーディネーター:戒能民江
シンポジスト:原ひろ子、田中由美子(JAICA)、堂本暁子(千葉県知事)
原ひろ子:リプロダクティブ・ヘルスについて国連で取り上げられるまでに、NGOがどのように活動したかについて解説された。さらに、フィリピンでのDV関係法律は、NGOによって作られた。マニラの病院では、相談体制があり、DV被害をめぐるカルテや医師のカルテがあり、医師が法廷に出てくれる。
田中由美子:メコン川流域の人身売買に取り組んでいる。タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアで調査した。人身売買は国境を超えた暴力であり、複合的要因があり、貧富の格差によって行われる。タイの人身取引に関する対策は、全国7センターと、96ケ所の一時避難所がある。そこでは、年間300人以上の人を保護し、職業訓練をしている。日本は受入国である。被害者を見つけてすぐに送還するだけではなく、日本で被害にあっているのだから、きちんとリハビリをして送還して欲しいと、タイの人たちは思っている。
堂本暁子:国会議員時代は、DV法を作ることに専念した。千葉県知事になって、DV法の運用にかかわることができた。女性のサポートセンターの設置、県のDV基本計画を策定した。基本計画では、可能な限り当事者の声を入れた。さらに、若者へのデートDV防止の取り組みとして、デートDV予防セミナーを20校近くで実施している。加害者更生に取り組んでいるが、これについては、十分考えていく必要がある。民間シェルターと自治体との連携では、野田市と民間シェルター「青い鳥」とでうまく連携ができている。このような各自治体と民間シェルターとの連携ができることが期待される。
(4)被害者心理・支援者心理
辻 龍雄
平成14年1月に、我々のシェルターは設立されました。皆様のご支援のお蔭で6年になります。さまざまな事例を見てきました。父親をおびえる幼い子供。登下校時での父親の出現に子供たちが怯えるために、催涙スプレーを持たせた母親。鍵をかけて閉じこもった母と子の家に窓を破って押し入ろうとする父親。妻子が逃げてしまい、行方がわからず、何を血迷ったか自宅で首をつり自殺した父親。逃げた妻子の所在を病的にまで執拗に追い続ける父親。妻子を殴らなければいいだけのことなのにと思います。
DV・暴力・虐待を受けてきた人を支援する人たちには、心の中に類似した反応がみられるように思います。私自身も経験したことですが、まず、その話の“非日常性 ”に驚愕します。そんな事があるはずがない。信じたくないという気持ちの出現。次に、それが事実と知った時、被害者が体験した戦慄するような恐怖感を自分自身が“体験”したように感じます。そして、何もかも手につかず、激しい怒り、加害者への復讐のような処罰感情、それは時に、寝ている場合じゃないというような使命感のようなものになり、鋭く激しい攻撃性を持つようになります。
なぜ、ここまで考えるのか?なぜこれほどまでに関わるのか?なぜ、聞かされた戦慄するような出来事を思い出したくもないのに、いつも思い出してしまうのか?その答えを求めるかのように、自分自身の救いを求めるかのように奔走し始めます。
往々にして、支援者は“攻撃性”を持ちます。この攻撃性は被害者の気持ちに共感する度合いが強いほど激しさを増すようです。つまり、DV・暴力・虐待の被害者は攻撃性をもっているのです。その攻撃性が支援者に投影されてしまう。
グーグルで“DV殺人”を検索すると7,230件ヒットします。女性が男性を殺害するケースが目立つのは、中途半端な攻撃では逆襲を受けるために、寝ている間に凶器を使って一撃で殺害する方法を選ぶことに起因すると思います。こういう視点をもってニュースをみていると、その事件の背景が違う角度から見えてくると思います。
また、DV・暴力・虐待の被害者は、なにか奇異な印象を与えます。服装などの外見や、話し方、会話への反応性をみていると、突然、なんでそんなに逆上するのか、何に逆上しているのか?理解できないことがあります。
この6年間に日本では、DVという言葉が何を意味しているのか理解されるようになってきました。行政の取り組みも積極的です。一般職の行政の方々が、職業としてDV・暴力・虐待の相談に応じるようになった現在、上記に述べたような被害者心理、支援者心理をご理解できるようになって頂きたいと思います。
幸いなことに、山口県警察は早くから被害者支援活動の研修を重ねてきました。また、幸か不幸か、その知識を実践し活かせるような事件も起きていました。暴力に対決する専門職である警察と私たちの活動が、益々緊密な連携ができるようにと願っています。