ニュースレターNO14
2008/12/24
No.14
ニュースレター14号
目次
1.大きな実りの秋でした
2.全国シェルターシンポジウム 分科会報告
3.全国シェルターシンポジウム 基調講演より
4.2008年の活動報告
5.国際ソロプチミストから助成金をいただきました
1.実り大きな秋でした!
年の瀬も押し迫ってきました。いかがお過ごしでしょうか。
この秋は、10月11日に日本セーフティ・プロモーション学会(於東京都高齢者研究所)で「高齢期におけるDV被害者支援の課題」について発表しました。この学会では、安全な街づくりについて高齢期における事故予防、WTOから「外傷と暴力予防の取り組みのための地域的な枠組み」を支援していることについての基調講演、口演として道路交通安全・自殺予防の取り組み、安全教育指導などの視点からの提案があり、行政と民間団体がどのように提携して安全な社会を作り上げていくかについて討論がされました。その中で、私たちは、家庭内における安心安全としてDVが若年でも高齢期でも起きる可能性があることを報告してきました。人の一生を通じて幼児期から高齢期まで、家庭内から社会活動・学校内活動、身体的安全から精神的安全まで、幅広い分野での安心安全について提言や検討がされました。あらゆるところで、セーフティ・プロモーションという考え方が必要だと実感した日々でした。
また、11月22・23日に全国シェルターシンポジウムin岡山(倉敷市)で、分科会「サバイバーの心のケア」を担当しました。山口女性サポートネットから暴力の被害者の実態と精神的サポートをしてきた事例を発表し、精神科医竹下小夜子氏からDV被害者のおかれている精神状態とそれに対する対応の仕方について詳細な提言を頂きました。参加者からは、大変有意義だったという感想を頂くことが出来ました。
シンポジウムでの基調講演は、「アメリカ(30年)と日本シェルターの歩みと課題」として、加藤洋子さんとメリー・ジョンソンさんのマサチューセッツ州での話がありました。加藤洋子さんは、娘と孫をDV殺人で亡くした経験のある方で、現在はDV撲滅・被害者援助の講演活動をしておられます。また、被害者の代表として犯罪被害者援護局の理事に加わっておられます。メリー・ジョンソンさんは、西マサチューセッツ州YWCAの責任者です。当YWCAのシェルターは、45000平方メートルの敷地に管理事務所・会議室・48ベッドを備えた、美しく堅牢な建物で、シェルターであることを公表しているそうです。とても驚きでした。
高知のDVシェルター「あいあいめっせ」の紹介で、NPO法人セカンドハーベストジャパンからたくさんの食料品が届きました。自立して頑張っておられる被害者宅に配達しています。年の瀬に向けて、私たちの心も温めることができました。
2.全国シェルターシンポジウム 分科会報告
A-8分科会「サバイバーの精神的ケア」
1)DV被害による身体・精神への影響
WHOの調査によると、DVを受けた人と受けない人とでは、身体的疾患、精神的疾患の罹患率に差が出ています。
■健康状態の自己評価 ■身体機能の支障
DVを受けたことがない人と比較すると ・歩行困難
・心理的暴力 ・日常生活の問題
1.56倍 自己評価低い ・痛みや不快感
・心理的+身体・性的 ・記憶や集中力の問題
2.17倍 自己評価低い などに支障がでる。 WTO日本調査
2)「解離性症状のあるAさん」
Aさんは極度の恐怖がある時には解離が起こることがあります。退所後6ヶ月後に夫に居場所を突き止められた時、解離が起きました。しかし、精神科医を中心としたサポート体制(児童相談所、警察、生活保護ケースワーカー、市の相談員、学校)が作られて、彼女は安心して生活が出来るという実感を徐々に持つことが出来るようになりました。それによって、大きな解離が起きることなく、この一年をすごすことが出来ています。安心に生活できることが精神的な安定をもたらします。
3)竹下小夜子精神科医のお話から
「何度も逃げては戻ってしまう人への支援は?」(受容のスタンス)
◆危険時に支援を求める健康さを有する
◆繰り返すうちに逃げ足がはやくなる
◆3~5回逃げることを繰り返すうちに決心のつく人が多い
◆何度でも繰り返してよい
→「今後も危ないときはいらっしゃい」
「PTSDの深刻さ、フラッシュバックに苦しむ人への対応は?
◆「フラッシュバックやパニックが出現するのは、最悪の困難な時期を通り過ぎて、目の前は安全・安心な時だけです」
◆「発作は必ず通り過ぎます」
◆ 輪ゴムの利用
発作が出たとき手頸にはめた輪ゴムを引っ張ってパチンと放す。
◆不安障害にも適用可
3.全国シェルターシンポジウム 基調講演より
西マサチューセッツ州YWCAキャンパス(シェルター)について
入口は鉄のゲートで、土地周り全体(約45000平方メートル)を鉄の垣根で囲っている。ゲートは時間でコントロールしてあり、恐怖ボタンで開閉できる。
* キャンパスは安全を守るためにデザインしてあり、許可なしで出入りできない。
* 建物の中にはあちこち恐怖ボタンがあり、それは警察に直接つながり、ボタンが押 されると警察は重要問題として扱う。
* 被害者はキャンパス内でペンダントのような恐怖ボタンも使える。
* 建物の中には8つの出入り口があり、全部別々のキーカードで開閉する。
* 建物の中には14個のカメラが取りついている。
* 入口の窓は銃でも割れないガラスを使っている。
* 建物全体の窓は開かない。
* 子どもの外の遊び場は外から見えなくなっている。
* 台所にも安全ゲートがある。
* 部屋の天井も安全。
* 部屋の中の押入れにはドアがない。(危険物・法律違反のものが隠せないように)
* 建物全体の床にヒーターが入っている。これは暖房に能力があり、費用が安く済 む。
* エアコンと建物全体に空気清潔システムがついている。
* 建築に使った材料は全部、長持ちする最高の資材を使っている。
(メリー・ジョンソンさんの講演より)
4.2008年の活動報告
辻 龍雄
今年は忙しい1年でした。3月は京都で開催された国際セーフ・コミュニティ会議で、久しぶりに英語で口演しました。10月は東京で開催された日本セーフティ・プロモーション学会で「高齢期におけるDV被害者支援の課題」と題して山口女性サポートネットワーク代表が口演しました。翌日の学会長挨拶の中で、この発表のことが取り上げられ、その言葉から推察すると聴衆には大きなインパクトがあったようです。
11月は倉敷で開催された全国シェルターシンポジウムにおいて、“サバイバーの心のケア”の分科会を担当し、我々のシェルターに緊急一時保護した人たちの状況からみえてきたDV被害者支援の課題について発表しました。分科会の精神科医竹下小夜子先生の講演は、現場での経験に裏付けられたお話で、「フラッシュバックやパニックが出現するのは、最悪の困難な時期を通り過ぎて、目の前は安全・安心な時だけです」などのように、切り口が斬新です。こうした分科会の担当は、下関市で開催された日本女性会議でもあります。今回が二度目の経験となりました。
後期高齢者医療制度も、年金問題も、高齢期のDV被害者の生活に影響を与えています。後期高齢者保険証は、県連合会が発行します。従来の国民健康保険証は市町村単位でした。夫の保険証から妻だけの保険証に分離して新しい保険証を発行してもらおうとすると、前例がないということで手続きは止まりました。夫に妻の本人確認をしようとすれば、妻の所在を夫に突き止められてしまいます。世帯主である夫の承諾なしに手続きを進めることを問題視されました。だが、国民健康保険証では、DV被害者と認定されていれば、これができていたのです。
年金分割をして、夫婦別々に年金を受け取るようにすると、仕送りがない限り、夫も妻も生活保護レベル以下の収入になってしまう現状があります。住む場所を探すと、有料老人ホームは年金生活者には経済的に無理。軽費老人ホームA型もB型も、特別養護老人ホームも、これまで一戸建ての家に暮らしていた人が生活するには、集団生活であり、狭い部屋に二人で寝るというように個室も確保できない状況があり、とても受け入れられない。自立した生活基盤を作り上げていく上で基礎となる住居の確保が非常に難しいのです。
高齢者には妻を自分の所有物と捉える価値観を持つ人がいます。高齢化に伴う社会性の低下や性格の変化、理性的処理能力の低下から、短気で暴力的な言動がでてくることがあります。高齢期の精神疾患は暴言や暴力の症状を呈することがあります。さらに、“今さら別れなくても”というような社会の固定観念があります。
だが、突然夫が切れて妻が殴られ、救急車で搬送されるような経験を繰り返し、殺されるのでは、という恐怖から自宅から逃げ出すような生活を続けられるでしょうか。私たちの経験を整理して得られた知識を、これからも発表していく活動を続けていきたいと思います。
5.国際ソロプチミスト防府から助成金をいただきました
国際ソロプチミスト防府は、2008-2009年期「女性と女児のためのソロプチミストクラブ助成金」を受賞されました。プロジェクト名は、「デートDVの啓発及び、DV被害者のためのシェルター支援」です。当クラブは、2002年度から、山口県初の民間シェルター「山口女性サポートネット」を支援しておられます。2003、2004、2006年度に続き、4度目の受賞となりました。今回も私どもに支援していただきました。
国際ソロプチミスト防府の皆様、感謝申し上げます。