ニュースレター16号
2010/01/31
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ニュースレター16号 |
サバイバーの孤独
寒中お見舞い申し上げます。
今年度、新たに行った事業に、内閣府主催の全国ホットラインに参加、全国女性シェルターネット主催のふらっとプログラム(内閣府委託)への参加があります。これらの事業を通じて特に強く思ったのは、「サバイバーの孤独」ということです。これまで私たちのシェルターを出られた方も訴えられていました。具体的に言うと、「誰にも言えない」「私が心を割って話せるのは、シェルターの人たちしかいない」「どうしようもなく孤独感に見舞われる」「自宅にいる時は、この人さえいなければ・・・と思っていた。いざ離れてみると、安心・安全はあるものの、どうしようもない空虚感がある。こんなはずではなかった」というような声です。
これまでの支援は、まず相談、次に安全の確保でした。しかし、一時保護施設を退所した後の人生は長いですし、様々な問題が起きます。私たちは、一時保護施設を退所した後の支援を「自立支援」と言っています。この自立支援は、自助グループを立ち上げたり、相談を受けたり、必要な同行支援をしています。
この秋行ったふらっとプログラムでは、「明日への英気を養おう!焼肉と東行庵で秋を満喫する」ということで、シェルターを利用した家族、支援した家族の人たちと河川敷公園でバーベキューをしました。地元の女性会の協力もあり、お客様として接待しました。特に自己紹介ということは設けず、しっかり肉、チヂミ、おにぎりなどを食べたうえで、興味ある人と交流をしておられました。とてものんびりできる一日でした。
1月3日には、スタッフのおせちによるお正月会をしました。正月を一人で過ごすサバイバーを招待しました。あるサバイバーは、「職場で、正月休みをどう過ごしたか、と問われた時、胸を張って『およばれ』に行ったのよと、答えることができた。とても嬉しかった」「同じような体験をした人と話をして、私も早朝暗いうちに仕事に出かける時、あ~彼女も今仕事に出かけているんだと思うと、仕事に行くことがなんだかとても嬉しくなりました」「いつもひとりで正月を過ごしておりました。しかし、今年はおまねきがあって、とてもいい年に思えるようになりました。涙、涙の日が少なくなっています。私の人生を生きようと思っています」という声をいただきました。
私たちのできることは、サバイバーにとって沢山はありません。しかし、少し元気になられるような行事を組むことで、サバイバー自身の力が引き出せるような気がしています。もちろん、このような自立支援事業を行政がすべきではないでしょう。民間の役割と思えます。行政は、私たちがサバイバーを元気づけてあげるように、行政も「応援していますよ」という後押しがあれば、私たちも元気にサバイバーの支援に力を出すことができるでしょう。
「DV/性暴力(虐待)人身売買被害者支援ホットラインのための研修」から一部を紹介します
・日時 9月21日(月)14:00~9月23日12:00
・場所 アルカディア市ケ谷
【DV家庭における性暴力の実態と支援】
講師 近藤恵子さん全国女性シェルターネット共同代表
・DVの被害実態
3人に1人が身体的暴力・精神的虐待・性的暴力のいずれかのDVを体験している。22人に1 人が殺されるかもしれない危険な体験をしている。3日に1人ずつ妻が夫の手に掛って殺さ れている。
・DV家庭における性暴力被害
16%以上のDV被害女性が、過去にも性暴力被害を受けていた。53%のDV被害女性が、パー トナーからの性暴力を体験していた。夫、パートナー以外からの性暴力被害については強 姦、近親強姦、強制売春の順になっており、被害は10代~20代に集中している。
・DV家庭における性暴力被害実態
こどもの性暴力被害実態 性暴力を確認できた子どもは6%(一般児童被害は3%)
低年齢の性暴力被害に特徴がある。-0~14歳までの被害が72%と一般家庭より高い。
加害者は実父である。-実父から86%、他の家族から96.9%
こどもたちの被害影響-何をされているのかを理解できない。逃げられない、訴えられな い。
DV家庭では誰も性暴力を止められない。さらなる暴力被害にさらされやすくなる
重複被害は生き続けることを困難にする。
・民間サポートシェルターの役割
DV被害当事者・性暴力被害当事者支援の先駆的な担い手であり、女性に対する暴力の根 絶は、フェミニズムの核心である。
当事者とともに道をひらいてきた。(DV防止法の制定・第一次第二次改正・制度運用の改 善)
暴力の発見をしてきた―相談・シェルターサポート・ステップハウス・自立支援を通じて。
アフターフォローをしてきた―医療的支援、メンタルケア、行政的支援、司法的支援、生活 支援、就労支援、こどもの支援
調査研究・政策提言・地域啓発教育活動・関係諸機関との連携・社会資源の活用
・包括的な性暴力禁止法は必要である。
性暴力犯罪の規定 性暴力犯罪に対する処罰と再教育システム
性暴力被害者回復支援センターの設置
【複合被害「私たちはなぜ寂しいか」虐待、暴力被害に遭った人】
講師 上岡陽江さん(ダルク女の家代表)
ダルクは薬物やアルコール依存の人たちを支援している団体。
依存症の人は、すぐ仲良くなるが、信用しないのが、特徴。
1)回復は30年スパンで考えている。
最初の10年は、怒り 何をやっていいいかわからない。刑務所に入っても、入院して も、リストカット、依存症、摂食障害、何が起きても、とにかく生き延びること。3年5 年10年で回復の目安を知る。
10年たって、初めの一の便りが見えた。みんな生き延びている。20年、30年たって、や っと回復する。
順調に行くよりも、この経験が次に活かせる。順調に行くほうがおかしい。
2)自分の家と他の人の家の違い(自分が家族をまとめている)
自他の境界を壊されて育っている。つまり、自分の痛みと他人の痛みとの区別がつかな い。何か起きると、自分の精だと思ってしまう。自分が何とかしなくてはと、思ってし まう。危ない人と危なくない人との違い、危なくない関係がわからない。そこで、自分 と相手がぴったり重なることを望んでしまう。
結果的に閉じ込められた支配、密着したものを愛情と勘違いしてしまう。援助者とも同 じように求めてしまう。
3)援助者に期待する役割
まずは身体のケアである。「距離」を取るのではなく、チームでつきあうことである。 一人で対応するならスーパーバイザーを持つことである。このような「応援団をもつ」 ことが当事者にとっても良いモデルとなる。当事者が「ちょっとさびしい」と感じるよ うになったら、よくなったといえる・
4)心の大きなとげは、小さなとげの集まり。
大きなとげに光を当てると、小さなとげに変化する。乾いて抜け落ちる。
傷が盛り上がって見える(回復):傷は残しておきたい(誇り)
5)女性の依存症の回復とは
「自分のことばでしゃべれるようになること」「自分の都合(も)優先できるようになる こと」「自分のからだと付き合えるようになること」
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児童虐待とDVは同時多発的に発生している
辻龍雄
山口県内のDV相談件数は2006年と2008年では400件以上増加しています(表1)。県の施設に一時保護された多くの被害者の人たちは、子どもたちを同伴しています(表2)。
(表1)山口県のDV相談件数の推移
年 2006年 2007 年 2008年
被害者数 52 27 34
同伴児数 69 37 42
(表2) 県一時保護施設の収容者数の推移
年 2005年 2006年 2007年 2008年
県DV センター 460 354 308 344
市町役所窓口 373 463 846 810
宇部警察署 38 24 36 35
サポートネット 109 171 243 267
合計 980 1,012 1,433 1,456
(資料提供宮本輝男宇部市議会議員)
父親の暴力や両親の不仲な家庭の中で育った子どもたちは、直接的に間接的に<暴力>を受けています。中には<心的外傷体験>と呼ぶべき体験もあります。その結果、DV家庭の子どもたちの中には、不眠、うつ状態、不安感、自信喪失感などをきたし、トラウマを持っている子どもたちもいるようです。
昨年、全国女性シェルターネットワークは、DV家庭の中で起きている性暴力を取り上げ、「性暴力及び性虐待被害当事者のサポートとは」と題する公開講座を全国6箇所で開催しました。その報告をみると、DV家庭で育った子どもたちの約6%が性虐待被害を受けており、加害者は実父であることが圧倒的に多いようです。
妻を殴る男は、子どもも殴り虐待し、女児への性的虐待さえ存在している。同じ家庭の中において、DVと児童虐待は同時多発的に発生しているのに、児童虐待は児童相談所で対応し、DVについては市町役所の窓口やDV相談センターが対応する形、すなわち、児童虐待防止の取組みとDV被害者救済の取組みは、別立てで進んできている。
私たちは、<現場>から見えてくるこうした課題を、これからも、問題提起していこうと思います。