ニュースレター34号
2019/01/15
明けましておめでとうございます。
みなさまのご支援により、昨年も無事終えることができました。今年度もどうぞよろしくお願いします。最近の出来事や考えていることをご紹介しましょう。
秋晴れの日に、入所者や入所経験者たちとリンゴ狩りに行きました。今回は子どもたち中心に企画しました。リンゴ園では、1団体しか入れないため、入所者も他の人と出会う心配もなく、しっかり外の空気を満喫できました。赤や黄色のりんごをたくさん食べました。赤ちゃんは子どもたちの人気者で、たくさんのお姉さんに囲まれて、終始ご機嫌でした。年上の子どもたちも、赤ちゃんと遊ぶことで癒されているようでした。異年齢集団で遊ぶ体験も、大事だということを実感しました。子ども達が、親たちに「うちのパパとママは離婚しているけど、おばちゃんはどうしているの?」などと、離婚について尋ねる場面もありました。それぐらい子どもにとって離婚は大きな関心事でしょう。
「暴力の連鎖をくい止めたい!」昨年はそんな思いをするような出来事が続きました。DVで父母が別居してから、子どもたちが弟や弟に暴力をふるっているケースがあります。「お父さんの暴力をふるう遺伝子が僕にもあるので、僕も暴力をふるってしまう。生きていてもしょうがない」、そんなふうに悩んでいるお子さんの話もありました。他の母親からは「暴力から逃げたのに、今度は自分が子どもに暴力をふるってしまう」そんな話も耳にします。
暴力をしない対等な関係の作り方を学ぶ、びーらぶプログラムを提供しようと、3人のびーらぶインストラクターを養成してきました。しかし、びーらぶプログラムを実施するには、インストラクターが最低5~6人必要で、毎年一人ずつの養成ではいつまでたってもインストラクターが揃わないことが判明しました。インストラクターになるために東京までの交通費・宿泊費を含めて30万円は必要です。30万円を出して学びたいという人が今後現れるかも疑問です。
また、現在のインストラクター3人と他県のインストラクターに手伝ってもらって「びーらぶ」を実施するという方法も考えました。しかし、インストラクター2名を派遣されたとして交通費、宿泊費、謝金も必要で100万円近くの額になることが分かりました。さらに、プログラム実施には打合せや予行演習が必要ですが、他県の人と一緒にすることでは時間が十分取れない可能性があります。そこで、山口県内でインストラクター養成講座をひらき、たくさんのインストラクターを養成することを決意しました。
今年も赤い羽根テーマ募金の認定団体となりました。
平成30年度の赤い羽根テーマ募金の助成では、同行支援費等にも当てます。また、新しい事業として暴力を受けた女性とその子どもたちのための心理教育プログラム「びーらぶ」を実施するためのインストラクター養成講座に、赤い羽根テーマ募金を使いたいと思っております。
画期的な欧州評議会「女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンス防止条約」(イスタンブール条約)
第21回全国シェルターシンポジウムin札幌が11月3~4日にありました。ここで最も心に残ったのは
基調講演 欧州評議会「女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンス防止条約」(以後イスタンブール条約)でした。オーストリアWAVE(ヨーロッパシェルターネットワーク)理事長、イスタンブール条約監視委員会委員であるローザ・ローガーさんが話されました。
イスタンブール条約は2011年に採択され、2014年施行となりました。
女性に対する暴力の定義に「女性に対する暴力は、人権侵害である」「女性に対する差別の一形態」として「公的生活もしくは私的生活のいずれかで生じるかを問わず、女性に対する身体的、性的、精神的もしくは経済的危害もしくは苦痛をもたらすか、またはもたらす可能性のある行為(かかる行為の脅迫、強制もしくは自由はく奪を含む)」とあります。
この条約は、ジェンダーに配慮した政策と被害者の権利があらゆる措置の中心となっていること、民間団体を重視していることなどの特徴があげられます。暴力からの保護に関しては、迅速な保護と加害者の処罰、シェルターや新たな住まいに移動する権利と住まいにとどまる権利の保障、緊急退居・接近禁止命令、加害者への一定期間の退居命令、住まいへの立ち入り・被害者への接触禁止、DVの犯罪化などがあります。
女性に対する暴力を犯罪とすることを締約国に義務つけているため、該当する行為について明確に定義されています。精神的暴力(33条)、ストーカー行為(34条)、身体的暴力(35条)、レイプを含む性的暴力(36条)、強制的女性性器切除(38条)、中絶・不妊手術の強制(39条)となっています。
第3条では、DVについて「DV」を「家族間もしくは家庭内、または加害者が被害者と住居を同じくしているか否かに関わらず、身体的・性的・精神的・経済的暴力のすべての行為」と規定しています。婚姻内、破たん後の暴力も対象であり、親から子への虐待、高齢者虐待も含んでいます。
迅速な保護と加害者の処罰が求められています。暴力に対して、DV被害者本人が告訴を取り下げたとしても、警察など当局が加害者に対する刑事上適切な防止措置をとったかが問われます。
さらに、この条約の履行状況を監視しています。条約締約国の代表から構成される「女性に対する暴力及びDVを撲滅する行動に関する専門家グループ」があり、各国からの報告書をみて勧告を出したり、緊急調査に入ることも可能となっています。
これらの話を聴いて、日本のDV法と比べてため息がでました。被害者がシェルターや新たな住まいに移動する権利と住まいに留まる権利の保障には驚きました。また、民間女性団体の重要な役割が認められています。「防止対策では、全面的に女性団体を活用する。包括的政策を作り上げるために現場の女性団体が専門的ノウハウを提供する。訴追では、被害者が司法手続きを取るには支援団体の援助が必要。保護では、ジェンダーに配慮したエンパワメントとなるような支援をするにあたり、民間支援団体が重要な役割を果たす。」とあります。また、女性センターは住民1万人に1カ所設置、強姦救援センターや性暴力センターを含む女性センターは住民20万人に1カ所とも規定されています。ため息が出るような条約です。
この条約はEUのみならず、日本でも批准することができます。この日は、参加した女性たちから「イスタンブール条約の批准を!」という声が上がっていました。
参考文献 『第21回全国シェルターシンポジウム大会冊子』、今井雅子「欧州評議会『イスタンブール条約』」『国際女性』N.29(2015)、戒能民江2018年12月8日政治セミナーレジュメ「DV被害者が逃げないでいい街をつくろう」
シェルターからの報告
DVの相談や入所者も増えています。シェルターの安全対策として、宇部市の助成金を得て防犯カメラと人感センサーライトを設置しました。足元が悪いので夜間の危険性がありましたが、足元を照らすことができるので一安心です。防犯カメラがあるので、怪しい人が出現した場合には記録をみて対応できるようになりました。少し、安心度が高くなりました。
年末には皆様から頂きました物品を入所者、入所経験者に配りました。お米、お菓子、調味料、洗剤など、日常的に必要なものなので大変喜んでくださいました。皆様に感謝申し上げます。フードバンク山口でもらったお米で餅つきもしました。
会員、賛助会員のみなさまへ
私どもの活動に、いつもご理解と温かいご支援を賜り、誠にありがとうございます。
被害女性のためのシェルター活動や研修講座、被害女性の自立に向けての様々な事業を施行しております。私たちNPO活動の基本は、ご理解いただくみなさま方の意思と篤志に支えられております。どうか本年度も、多くのみなさまのご賛助ご支援を賜りますようお願いいたします。
http://dv-net.jp/admin/article/mod/form/img/tool/hr.gif
振込用紙を同封いたしました。既にお振込みくださり、重複しましたらご容赦ください。
会員:年会費5千円、賛助会員:(個人年会費1口3千円、団体 年会費1口1万円)
郵便振替口座:01370-2-68031 口座名:山口女性サポートネットワーク
郵貯銀行 店番139 一三九店(イチサンキュウ店)当座0068031ヤマグチジョセイサポートネットワーク
設立から17年間を振り返る
辻 龍雄
17年前の2002(平成14)年2月1日に、山口女性サポートネットワークは設立されました。日本でのDV・性暴力への取り組みは、1995(平成7)年の第4回世界女性会議(北京)から始まります。この会議をきっかけに法整備が進められました。山口県では1998(平成8)年4月29日に、民間団体の北京JAC山口(JAC:Japan Accountability Caucus)が設立され、女性への暴力防止の啓発活動が開始されました。中心メンバーはここから活動を始めているので、21年の活動歴となります。
最初の緊急一時保護活動は2001年です。DV被害者から「娘が夫から性的虐待を受けている」という相談が北京JAC山口にありました。まだ、保護する場所もなく、夫の外出した日を狙い、女性と3人の子どもをメンバーの知人宅に保護しました。保護した夜に、私もそのお宅に集まりました。子どもたちは物珍しいのか、家の中をはしゃぎまわっていたのを覚えています。これがシェルター設立決意の端緒となり、約半年後に山口女性サポートネットワークの設立となりました。この経緯は、読売新聞西部版2005年5月29日朝刊に掲載されています。
関連法規では、1999年男女共同参画社会基本法、2000年ストーカー規制法、2001年DV防止法、2004年犯罪被害者等基本法が、時代の転換点となったと思います。ストーカー規制法、DV防止法が議員立法であつたことは、その後の法改正でもDV民間シェルターの意見が反映されることにつながりました。今、DVという言葉を知らない日本人はいなくなりました。ひとえに法整備と啓発活動の成果です。
現在、全国の被害者の支援団体は3つに大別されます。
1) 犯罪被害者支援センター48団体
2) 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター47団体
3) DV民間シェルター約100団体
警察庁主導の山口被害者支援センターと、民間のNPO山口女性サポートネットワークの設立と活動に、ほぼ同時期から深く関わりました。関連法の制定と支援団体の整備を、活動団体の内部にいて、創成期から体験したことになります。
今年の夏、日本セーフティプロモーション学会は、分担執筆により「セーフティプロモーション ~安全と安心を創る科学と実践~」と題する本を出版します。その中で、DV・性暴力・ストーカーについて、与えられた紙数はわずかですが、時代の変化の一端を書き残したいと思っています。
平成30年度 赤い羽根テーマ募金、ご協力をお願いします
テーマ募金は、同封の振り込み用紙で振り込まれると、赤い羽根共同募金会から
山口女性サポートネットワークに助成されます。
また、法人税、個人の所得税、個人住民税などの税制上の優遇措置がうけられます。