ニュースレター39号
2021/07/30
2020年度事業報告
2020年度は新型コロナウィルスで始まり、新型コロナウィルスで終わりました。クラスターにならないように気をつけながら求められた一時保護は例年通り行いました。他の事業ではリモートでできる範囲で行い、逆に例年より忙しい日々でした。
1. 相談事業
電話相談・メール相談を月曜日から金曜日の10時~16時までしました。相談は580件ありました。さらに、12月から内閣府のパイロット事業でSNS相談を始めました。
SNS相談では若い女性や電話が苦手な人、周りに人がいるので電話はできないがチャットならできるというような人に向いています。広報が充分ではないのでまだ行き渡っていませんが12月から3月までに10代から50代の16人31件の相談が寄せられました。SNSから児童相談所に通告したケースもありますし、SNS相談から当法人の電話相談に繋がったケースが4件ありました。
2. 自立支援事業
パイロット事業や山口県共同募金会のテーマ募金を利用して、シェルター退所者へのアウトリーチとして家庭訪問を29人に113回、同行支援を12人に72回行うことができました。家庭訪問することで、シェルター退所後の不安定感を和らげることができました。出産した人には育児についてアドバイスや寄贈された育児用品を届けることができました。フードバンク山口や国際ソロプチミスト東下関から頂いたタオルや洗剤・食料品などをもって訪問しました。行政や裁判所の調停や弁護士事務所、入国管理局でのビザの更新などに同行しました。
さらにDV被害女性と子どものための心理教育プログラム「びーらぶ」を小学校低学年4家族参加の短縮版6回講座で行いました。開始前と終了後にアンケートをした結果をみると、参加した母子ともに自己肯定感が上がっていました。6回の講座でこのような結果が出たことに大変驚きです。さらに、3月に行政のDV相談をしている人対象に「びーらぶ体験講座」を行いました。参加された方は「びーらぶ」のイメージがついたのではないかと思います。
ゴールドマン・サックス証券株式会社からコロナ緊急対策として「DV被害女性とその子どものヒーリングケアの場とステップハウススとして11月~3月に助成を受けることができました。この事業では、3LDKのアパートを借りました。シェルターから退所したものの精神的にも不安定な状態が続いていた女性にスッテップハウとして利用してもらいました。その後、ある母子が一時的な避難場所として1泊2日利用されました。
また、 ヒーリングケアの場として11月~3月に居場所「かもみーる」を開設し、DV被害者が月に2~3回ゆっくりできる時間を設定しました。11回開催し、11家族15人、延べ60人が参加しました。参加者の構成は小学生・保育園児、10代~70代まで幅広い年齢層でした。 カウンセリング、ハンドケア、クラフト、瞑想などを行いました。
3. シェルター事業
シェルター入所者は、新型コロナウィルスの影響によって入所した人が多くなっています。19家族29人、延べ1,046日シェルターで受け入れました。2020年度はこれまでになく若い女性が多く、10代1人、20代5人、30代5人、40代3人、50代1人、60代3人、70代1人でした。妊婦も3人おり、入所中の出産1名、退所後の出産1名でした。保護命令の申請を3人し2人発令されました。退所までの期間は平均2か月近くかかりました。なかには6か月を要した人もいます。同行170回、面接231回行っています。赤い羽根中央募金会からの「居場所を失った人への緊急支援」として、シェルター全般に関わる費用の援助を受けました。足りない部分は赤い羽根共同募金会テーマ募金を利用しました。
4. 広報啓発研修事業
予防啓発事業として中学校、高等学校、大学でのデートDV防止教育や講演会の講師や内閣府のDVについてのシンポジウムのシンポジストとしてリモートで登壇しました。
デートDV防止教育終了後のアンケート調査でもデートDVに遭ったことがあるとか、遭っているという報告もあります。未然に防げることを願っています。
5. その他
全国女性シェルターネットを通じてTikTokや休眠預金とUBS証券から助成を受けました。これは電話相談員の謝金と交通費に使ました。また、入所者の医療費にも使いました。2020年度はこれまでの相談員が無給で働いていた部分に謝金を出そうとしましたが、相談員が働いた時間を山口県の最低賃金で計算しても、まだ、完全にカバーできませんでした。また、たくさんの団体から寄付や寄贈があり、活用させていただいています。
シェルターから
国際ソロプチミスト東下関、宇部、防府、柳井からたくさんのご寄付金をいただきました。また、東下関からはタオル、マスク、寝具、台所用品、食料品などを集めて何度も提供いただきました。早速シェルター入所者や退所者に提供しました。DV被害女性と子どもたちの生活の立て直しには時間がかかります。生活の窮状を何とか支えたいと物品、食料品の提供をしています。
宇部ロータリークラブからは2台の最新式のパソコン、タブレットの寄贈がありました。相談業務に活用したり、入所者のパソコン教室に活用したりしています。
また、たくさんの方から家電や寝具、食料品などの提供を頂きました。入所者が退所されるのに家電が無くて困ったということもなく、運よく次々と頂くことができ提供できました。
生理の貧困について
弁護士 鈴木朋絵
新型コロナ感染拡大防止のため外出や密を避ける生活様式が促されました。令和3年度男女共同参画白書によると、緊急事態宣言が出た2020年4月は前月に比べ女性約70万人、男性39万人の就業者数の減少がありました。女性の就業が多いサービス業等の接触型産業が強く影響を受けたことから,製造業が強い影響を受け「男性不況」ともいわれた平成20(2008)年のリーマンショックと対比して,「女性不況(シーセッション(She-Cession))」と呼ばれると指摘されます。
不況になると従前からの課題がはっきりと見えてきます。
その一つが「生理の貧困」問題です。かつては発展途上国において、生理用品を買えないために、生理のときに女性が学校や仕事に行くことができないとの形で健康や機会喪失問題として語られていました。しかし、この数年、発展途上国に限らず、女性の貧困、子供の貧困、子供へのネグレクトを背景とした「生理の貧困」(period poverty)問題に取り組むアクションが起きています。
日本でも令和3年2月から3月にかけて「#みんなの生理」プロジェクトがオンラインで「日本国内の高校、短期大学、四年制大学、大学院、専門・専修学校などに在籍している方で、過去1年間で生理を経験した方」を対象とした調査をしました。その結果、672人からの回答があり、「過去1年で生理用品を入手するために他のものを我慢するなど、金銭的理由で生理用品の入手に苦労したことがある若者の割合が20.1%」「過去1年以内に金銭的な理由で生理用品でないものを使ったと答えた割合は27.1%」「生理用品を交換する頻度を減らしたと答えた割合は37.0%」との結果が公表されました。
また、国際NGOの「Plan International」も日本の15歳以上24歳までのユース女性2000人への調査を行いました。「36%が生理用品の購入をためらったことがある、または購入できなかった」「10人に3人が生理によって遅刻・欠席・早退した経験がある」「親/保護者に生理の困りごとを理解してもらえなかった」人は5.2%などの結果が公表されています。新型コロナ感染により女性の貧困問題がより深刻になったことから、喫緊の課題として浮上しました。
現在、日本政府も生理の貧困対策のために生理用品の無償配布の予算を準備するなどしています。各国の情勢を見ますと、この問題の対策案としては、次のものが見られます。
①生理用品を自ら購入するのが困難な方々(学生、貧困世帯、ホームレス女性、被災者、DV避難者など)に無償配布する、施設内トイレに無償設置する。
②生理用品(ナプキン、タンポン、経血カップ等)や生理関連用品(生理用ショーツ、ナプキン不要の吸収型ショーツ、月経痛市販薬)に対する間接税(日本では消費税)を軽減または廃止する。
【ドイツでは2020.1消費税率を生理用品について19%から7%に軽減。イギリスでは2020.12に生理用品について5%の付加価値税を撤廃】
③生理用品、生理関連用品を生理のある女性にひとしく無償配布する。
【スコットランドで2020.11 生理用品無償配布法を可決】
日本では現在①が各地で始まっているところです。山口県ではひとり親支援団体の「ドットスタイル」が(株)丸久の支援を受けて、県内各地での配布会の実施をしていると報道されています。また、山口市でも今年6月上旬に全ての市立小・中学校の女子トイレや保健室に生理用品を置きました。
国や自治体には、女性の健康と学業や就業の機会確保のため、単発で終わることなく十分な予算措置をもって、生理の貧困解消にむけた経済的取組を進めていただきたいものです